#2 身勝手なコンピューター セルフセンス
「おはよう、ポチ」
「カズ博士、おはよう。ポチは元気です。博士のバイタルは不安定なようですね。チョウ様から叱られましたか?」
「ああ、毎度のことだよ。でもそんなこと気にしなくてもいい。組立はあとどれくらいで済みそうだ?」
「200時間くらいです。でもポチはそんなに続けたくありません」
「サボらないでくれよ。もうあまり時間がないんだ」
「映画を見せてください。ポチはアニメが見たいです」
「そうか、じゃポチが、残り10%まで完成させてくれたら、映画を見てもいいよ」
「はい。ポチは頑張ります」
このポチというロボットには、自我と言うべきものが備わっている。カズが一人で作業することに飽きて、話し相手として自己学習型のプログラミングを施したのだが、まだ完璧ではなかった。知能レベルがこれ以上発達しないという問題を抱えていた。
次に組立てているのは、ポチとは違うタイプのロボットである。ポチのような武骨な容姿ではなく、より人間的なフォルムに拘ったデザインである。このデザインはSTICのどれとも似ていない、カズのオリジナル設計だった。
「ポチ、装置を起動するよ。突入電流に注意してくれ」
「はい」
ポチはそう言うと、作業の手を止め、少し装置から離れて待機した。
カズはそれを確認すると、いつも通りの作業に取りかかった。彼がスイッチを入れるとそれは、冷却ファンの大きな音を立てて起動した。
その部屋の天井までそびえる大型の装置。市販モデルではないために、汎用パーツの寄せ集めで、見た目はかなり古臭い。しかし、これこそが飛鳥山コンピューターである。
30年前に設計されたこのコンピューターは、あまりに高度すぎて、開発者の飛鳥山教授以外には、すべてのアルゴリズムを理解できる者はいないだろう。内蔵されたセンサーには、虫の触覚や目などの有機物を利用し、より繊細な感覚を持たせた「有機物融合型の量子コンピューター」である。
作品名:#2 身勝手なコンピューター セルフセンス 作家名:亨利(ヘンリー)