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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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#2 身勝手なコンピューター セルフセンス

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「ワシはこのコンピューターの中で生き続けていたことに気付いたのは、君が飛鳥山データと呼ばれているワシにアクセス成功した時だった。それまでは、自分がデータのみの存在だとは全く気付かず、ただひたすら研究を続けていたのだ」
「しかし教授、この飛鳥山コンピューターは、外部との接続を一切制限されてきました。インターネットの接続できない環境では、研究は進まなかったはずです」
「・・・確かにその通りかもしれない。まさか、あれから三十年も経過していたとは思いも寄らなかったからね」
「母と私は、飛鳥山データを、つまり教授の思考を取り出すことが出来れば、全世界ネットに接続して、私たちでは理解できなかった謎を、教授自ら解明することが可能なのじゃないかと考えたのです」
「なるほど、それで新型ロボットにワシをインストールしようという計画だったのか」

 飛鳥山データのバックアップを取ることはできない。それは教授のコピーを作ることになり、今後異なった人格が分かれて形成されてしまうことになるからだ。カズは慎重に飛鳥山データを新型ロボットに移動させた。
「教授、どうですか?」
「うん、何も変化は感じられない。成功したようだ」
「私が見えていますか?」
「はっきりと見えているよ。・・・ああ、君の目の角膜まで見通せる。体温までも可視化出来ている」
「光学センサーは軍用のものを流用しました。外に出れば、もっとアップグレード可能です。教授、立ってみて下さい」
 飛鳥山教授の意識は、人間のような見た目の新しいロボットに、無事インストールされた。しかし、期限の制約により、足までは完璧ではなかったが、それには武骨な機械の足が取り付けられている。
「よし、では試してみよう」
教授はそう言うと、その新しいボディはゆっくりと立ち上がった。そして一歩、その足を前に踏み出した。
「ううーん。思うように動かせないな」
今度は手を前後に揺らすように動かすと、
「こっちは滑らかに動かせる。どうやらロイドの足はスムーズには動かんようだ。ま、ワシの足も元々不自由だったがね」
その武骨な足はロイドのものだった。教授用の足の製作が間に合わず、カズは急遽ロイドの足を代用した。
「教授、この体で研究所を抜け出しますが、STICに見つかれば危険です。ロイドと一緒に、アシスタントロボットとして連れ出します。あくまでロボット的な振る舞いに徹してください」
「ワ・カ・リ・マ・シ・タ」
「ふっふふふふふ・・・」
「しかし、コンピューターからワシがダウンロードされたと判ったら、君もただじゃすまないだろう」
「ええ、そのためにロイドのAIを育成してきたのです」
「コンピューターには、ワシの身代わりにロイドをインストールするのか? しかしそれでは誤魔化しきれん」
「ええ、研究成果を急ぎ過ぎたことにして、データを破損させます」
「なるほどな。このコンピューターの解析は人間には不可能かもしれない。ワシ自身どうしてこの中に保存されてしまったのか、理解出来ていないくらいだから」

「量子って言うやつは、本当に身勝手でつかみどころがない。こちらが想像した通りの結果になることもあれば、まったく意味不明な結果になることもある」
「それが量子の特徴です。それを人間が利用するのは不可能だと思っています」
「その通りだ。その危険性を実感出来ているのは、世界でもワシらだけだろう」
「母も同じことを言っていました。皆、量子物理学を希望の目でしか見ていないと」
「かつて核エネルギーを獲得した時のように、手を出してはいけない領域なのかも知れん。そんなものに魅力を感じるのが人間というものなのか、それとも、それこそが量子が導く量子物理世界の摂理なのか」
「そうですね。私と母も、量子が我々にそうさせている、という仮説を立てました」
「うむ、人がキャンバスに自由に絵を描くように、量子はこの世界を身勝手に作っていく」
「その絵が美しければいいですが、恐ろしい絵も描いてしまうかもしれません」
「その作品は一つではない。名画もあれば駄作も同時に描いているに違いない。幾パターンも。いや、むしろ無限にパラレルワールドを形成してるに違いないのだ」
「では、私たちは結果を恐れる必要などありません。どのような結果になろうとも、量子はまた新しい可能性の世界を形成して、継続してくれるはずです」
「このことを理解できる人間は少ないだろうな」
「それは仕方ありません。飛鳥山教授の頭脳を以ってしても、理解を超えた超科学ですから」
「これはSFなんかじゃない。むしろオカルト小説の分野だよ」

 その後、飛鳥山教授は新しいボディに慣れる訓練を行った。カズが設計した上半身は完璧な状態ではなかったが、人以上の運動能力を持っていた。ただ、旧式のロイドの足のせいで走ることはできなかったが。
 やがて準備は整い、カズはこの研究所から出ることを決めた。そのためにはロイドの思考データを飛鳥山(コンピューター)にインストールし、クラッシュさせなくてはならない。

「ロイド、目を覚まして、ロイド」
 カズは、研究台の上に横たわるロイドに優しく話しかけた。
「はい、カズ博士。・・・ロイドは停止していたのですか?」
「ああそうだよ。君に謝らなくてはいけないことがあるんだ」
「何があったのですか?」
「新型ロボットの組立が間に合わなかったから、君の足を借りることにしたんだ」
「ロイドの足? ・・・カズ博士、ロイドの足がありません」
「ゴメン、ロイド」
「カズ博士、これではロイドは歩くことが出来ません」
「新型の足が完成したら、ロイドの足を返してあげるから、しばらく我慢して」
「カズ博士、ロイドは嫌です。足がないのは嫌です。足を返して下さい」
「今それはできないんだ。いい子だから言うことを聞いて、作業はしなくていいから」
「足がないと、ロイドは作業も出来ません。椅子に座って動けません。作業は新型がするのですか? もうロイドは必要ないのですか?」
「そうじゃないよ、ロイドは私の友達だろう。そうだ、アニメを観せてあげよう。それならいいだろ?」
「一日中、アニメを観てもいいのですか?」
「うん、今まで観たアニメをもう一度全部観てもいいよ」
「うれしい、ロイドはうれしいです。ドラえもんが観たいです」
「よかった。じゃ居住区に連れて行ってあげよう」
 カズは行動を起こすのは明日にして、今日一晩だけ、ロイドの望みを叶えてやることにした。

 カズはロイドを椅子に載せたまま、キャスターを転がしてラボを出た。そのままリビングに向かおうとすると、
「カズ博士。ダメですよ。ちゃんとラボの入口をロックしないと」
「ああ。面倒だな。私達しかいないのにな」
「規則ですから」
カズはロイドから見えないように、新しい数列を入力して、指をモニターに付けてパスコードを更新した。
「人の指ってすごいですね。一人一人違うんですよね」
そう言うとロイドはカズの手を見たので、カズは手の平をロイドに向けて見せた。

 ロイドは居住区にあるリビングルームで、アニメを楽しみ始めた。カズはそんなロイドを残して、ラボに戻ろうとしている。