#2 身勝手なコンピューター セルフセンス
カズはポチを椅子に載せたまま、キャスターを転がしてラボを出た。そのままリビングに向かおうとすると、
「カズ博士。ダメですよ。ちゃんとラボの入口をロックしないと」
「ああ。面倒だな。私達しかいないのにな」
「規則ですから」
カズはポチから見えないように、新しい数列を入力して、指をモニターに付けてパスコードを更新した。
「人の指ってすごいですね。一人一人違うんですよね」
そう言うとポチはカズの手を見たので、カズは手の平をポチに向けて見せた。
ポチは居住区にあるリビングルームで、アニメを楽しみ始めた。カズはそんなポチを残して、ラボに戻ろうとしている。
「ポチ、私はやり残したことがあるから、ラボに行っているよ。ポチはアニメを観ていていいから」
「カズ博士、ポチは一人で観るのですか? 一人は寂しいです。カズ博士も一緒に見ましょう」
「ダメだよ。仕事が残ってるんだ」
そう言うと、カズはその部屋を後にした。ポチはその後姿を見送り、閉められたドアを見詰め続けていた。
「カズ博士は噓を言っています。ポチには判ります。カズ博士の心拍が高くなったのを知っています」
ポチは椅子から転がるように降りた。そして腕を使って、腰を引きずるようにドアの方に移動して行った。そしてリビングルームを出た。
「アニメの続きが気になるな。続きを見たいな・・・」
スクリーンを振り返り、そう言いながらラボに続く廊下を進んだ。
作品名:#2 身勝手なコンピューター セルフセンス 作家名:亨利(ヘンリー)