ただ僕は。
翌週の週刊誌に取り上げられた。
何処で?誰が?
その写真は、路上で僕を見上げたものとその後に女性が僕の胸元に手を当て、僕の顎のあたりに唇が届いたような触れていないような微妙な見方のできる様子。そして、極めつけにホテルの中に足を踏み込んだ写真が掲載されたのだ。
あれほど幸せな家庭を守ってきた妻は、幼い子どもと出産を三か月後に控えた大きなお腹で別居した。連絡をしても、出てもらえず、彼女(妻)の所属のマネージャーからの伝言で彼女(妻)の意思が『離婚』に向けて強くなっていることを知らされた。
それだけでは治まらないのが この業界。
マネージャーは事務所から離れられないほど対応に追われ、僕はホテルに隔離されたままだ。テレビをつければ、此処にいる自分がレポーターに追われている場面。相手の女性の手にはフリルのついた花柄のハンカチが握り締められ、涙も零れていない鼻先を覆ってみせた。世間の目は、男である僕の批判ばかりが目立つ。まだ若いこれからの女優さんに傷をつけたとふれ回る。現場での談笑している写真まで何処からか出てきていた。
付き合いは、いつからだとか、その親密さは妻への裏切りだとか、噂は現実として世間に出回り、尾ひれも装飾もついても足りず、目撃情報として一般人までレポーターに応えている。週刊誌は、毎号売れ行きは、右肩上がりらしく、わざわざ僕に「ありがとさん」と通り過ぎた輩までいた。
何より、契約していた数社からの打ち切り、違約金の請求は僕を削り取っていくようだ。
課せられた違約金は、億単位。仕事を干された僕にどのように払えるというのだ。
妻と子への謝罪も費用も充分にできない現実。しかし、逃げる選択肢はない。
そこは、僕自身の真面目さが許さない。真面目ならば、何故こんなことをしでかしたのか?と 傷口に塩。反省をし足りないと批判の雨が強まるのもわかっている。
沈黙と反省ばかりでは、何も進まないし、何の解決もない。
世間からのバッシングもずいぶん受けたと思うし、妻との信頼もバッサリ。
そんな傷心を助けとなったのは、あの頃の友人だった。
「由、元気か? どぉーんと助けてやりたいけど、俺じゃ無理だけどさ・・・」
お調子者の奴だった友人が 起業してそこそこの利益を上げているという。
「俺んとこで働かないか?俺は 俳優の由が復帰してくれるのが嬉しいけど、それまでの足掛かりになれたらって思ってさ。来いよ。なっ」