ただ僕は。
それからの僕は、とんとん拍子に階段を上っていった。いいめぐり逢いは、二段飛ばしほどの飛躍もできた気がする。そんな有頂天に足をすくわれないようにと 僕のマネージャーは、厳しく諭す。もちろん それなりに成功してきた僕は 我が儘も反抗もするが、気遣いのある態度で一段戻してくれる調整もうまい。僕は、ただ敷かれたレールの上を走らされているのかもしれないが さも自由に振舞っているような感覚でいられる。周りのすべてが僕には温かい。
企業からのコマーシャル契約も片手に満たない(企業)数だが 大きな収入を得ることができた。
僕は、俳優。
やっと自信を持てた頃、映画の共演で知り合った女性俳優さんと意気投合。
運命の人と思った。
しかし、クランクアップして打ち上げを最後に次の現場へとそれぞれ気持ちは移っていった。
一年が過ぎて、その彼女と番宣《「番組宣伝」の略》を兼ねたバラエティ番組で再会した。
役柄で肩まであった髪は少し短くなっていた。変わらない横顔。作らない笑顔が僕の彼女を恋しいと思う気持ちを思い出させた。
それぞれの共演者と離れたスキに 僕は彼女に近づいたが 彼女は気付かない振り?だ。仕方がないと自宅に戻った僕の携帯電話に登録された彼女の名が浮き上がった。
そのやり取りは、僕の将来に大きな転機となる。
僕と彼女は、結婚した。
幸せが、毎日僕を変えていく。
悩むことも 疲れた顔も 彼女の元気がリセットしていく。
自分が 大きくなった気さえ感じさせた。
それが、間違いだったのか・・・。
新しい現場で 新人の枠からは出たものの、まだ不慣れ感が残るその様子が初々しく新鮮に感じられた女性がいた。
同じ場面での演技はなかったが、ロケ弁を一緒に食べたり、休憩に手づくりの菓子をご馳走になったり、親しさが増してきた。その女性から 誘って欲しそうな言葉。僕を見る時の視線の角度は、男性ならばきっと平常心を欠くものだ。・・・と僕は思う。
クランクアップの目安もわかった頃、お礼のつもりでプライベートで会う約束をした。
お互いにオトナ。お酒が入れば 空気も変わる。
しな垂れかかる女性を振り払うことなど 僕にはできなかった。
それに、僕もその女性も芸能人との認識をされるようになっている。可笑しなところで酔い潰れてはいられない。 そう思って、軽率にも僕たちは、ホテルに入ったのだ。