ただ僕は。
マネージャーの説得で事務所からと 友人からの援助という名の借用で 違約金の一時金を渡すことができた。
可笑しな話を耳にした。違約金を請求してきた企業の中で どうも経営が思わしくない社があるというものだった。しかも、その社は あの渦中の相手の遠縁にあたる親類が取締役として経営に携わっているという。こんな僕を見捨てず、再起の道筋を整えてくれるマネージャーはすぐに 真相を暴くべく動いてくれたのだ。
「嘘だろ?!」
その報告に 僕は愕然とした。
大掛かりなシナリオは、いつから動き出していたのだろうか?
嵌められた!と声を上げたとしても、その中の過ちという現実は消すことはできない。
馬鹿だった。と自身に拳をおろしても、もう妻とは 以前の繋がりは戻らないだろう。
僕が 今自身の事だけで精一杯な状況に 妻が子どもたちを守れるだけの信頼と仕事がある事が 僕にとって救いだ。もちろん早くその重責を解いてあげられる元夫になれるよう頑張るのはあたりまえの事なのだが・・・。
ただ僕は、これも貴重な経験と受け止め・・・
いや、そんなできた人間ではない。
またすぐに道を外れるかもしれない。
でも、これだけは忘れない。
初めて記事になった日のことも、今まで演じた役の楽しさも、どれもが僕を育ててくれた。
こんな騒ぎになっても 荒ぶることなく居場所を温め待っていてくれる両親。
心配なはずなのに 明るい話題でかわりなく接してくれる妹。
いつも、心の中で声を上げているんだ。
ただ僕は・・・。僕であり続けると。
― 了 ―