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過去への挑戦

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。たまに少し淫虐な表現が出てくるかも知れませんが、イメージ上の表現として見ていただければ幸いです。(他の小説のネタバレになる話もありますが、作者、作品名はあかしませんので、どの作品か探してみるのもたのしいかも知れませんよ)

                犯罪討論

 本日は非番で、とりあえず、差し当たっての重要事件があるわけでもないので、門倉刑事はお馴染みの鎌倉探偵の事務所にお邪魔していた。鎌倉探偵は数年前まで小説家をしていたが、あまり売れることがない中で請け負った出版社依頼の未解決事件を解決したことから探偵業を始めるようになった。
 元々売れなかったということに加え、依頼長であるにも関わらず、依頼主の期待にそぐわぬ結果だったことから、頼みの出版社もふいにしてしまった。そういう意味で、仕方なしの転職だったが、それを、
「天職でしたね」
 と揶揄するのが、ちょうどその少し後くらいに知り合った門倉刑事だった。
 門倉刑事は、まだちょうど今三十歳になったくらいの若手刑事だが、熱血漢だけではなく、理論的な推理にもたけていて、鎌倉探偵とは結構ウマが合っている。難事件が発生した時など、鎌倉探偵の意見を伺ったりすることもあって、ちょうどいい関係になっていたのだ。
 そんな門倉刑事の非番の日の楽しみの一つに、鎌倉探偵を訪ね、鎌倉が事件で忙しくない限りは、夕方まで、あるいは場合によっては夕食を一緒に食べて帰ることもあるくらいだった。
 鎌倉探偵は、年齢にしてもうすぐ四十歳くらいの少し小柄で華奢だが、中学時代には空手をやっていたというだけに、今でも方ができたり、姿勢がよかったりする。探偵としてあまりアクションを見たことはないが、見た目よりも活躍するのではないかと門倉は感じていた。
 鎌倉探偵は結婚もしておらず、彼女のウワサを聞くわけでもない。かといって、別に朴念仁という感じでもなく、なぜそういう浮いた話がないのか、門倉は不思議だった。
 門倉はというと、付き合っている女性もいて、いずれ結婚を考えていた。大学時代までは結構モテたようで、一時に何人もの女性とお付き合いしていたこともあったくらいで、いわゆる「武勇伝」と呼ばれるものも少なくはなかった。
 就職して、自分が一番下っ端だという意識を強く持ったことから、そういう武勇伝を伴うような浮ついた気持ちを捨て去り、真面目に警察官を務めてきた。そのおかげもあってか、三十前で刑事課に配属され、今では若手有望株と称されるまでになっていた。
 そんな彼の彼女というのは、上司の娘さんで、口の悪い奴に言わせれば、
「うまく取り入りやがって」
 ということになるのだろうが、意外とそういうやっかみも聞こえてこない。
 どの年代の女性警察官からも支持を受けていて、彼を悪くいう人はいない。年上からは可愛いと言われ、年下や同僚から慕われることが多い。きっと彼の天真爛漫な性格と、真面目なところが好感を得ているのだろうが、それに対して男性がやっかみを起こさないのも不思議ではあった。
 ただ彼は仕事となると、貪欲なところもあれば、まわりへの気配りもしっかりしている。何か文句を言ってやろうと思っても、
「はい、やっておきました」
 と、こちらがしてほしいことをすでにやっている。
 そんな相手にやっかむとなると、まわりから白い目で見られるのは自分の方であることが分かっている人には、そんなことができるはずもない。
 さすが警察というところ、人間関係に関しては皆が心得ている。犯罪捜査の際に、どれほどの人間のエゴであったり、歪んだ部分を見たか。それによってもたらされた結果を目の当たりにしなければならない警察官は、下手なことで人にやっかみなど妬くことはないのかも知れない。
 しかし、警察官と言っても人間、どんな人がいるか分かったものではない。いきなり足元をすくわれないように、門倉も中止する必要があるだろう。
 ただ、門倉はクラスの中で一人はいたかも知れないというような、
「どんな人からでも好かれるオーラを持っている」
 と言える青年ではないだろうか。
 鎌倉探偵もそのあたりは分かっていて、門倉刑事に敬意を表しているのかも知れない。
 門倉は、小学生の頃の夢として、
「サッカー選手になりたい」
 と学校で作文に書いていた。
 ちょうどその年、日韓共催のワールドカップをやっていて、小学生低学年の門倉は、まわりの熱狂に最初は冷めた目で見ていたが、日本代表の活躍などの目覚ましさを見ていると、自分がいずれサッカーの日本代表になれなければいけないような使命感に襲われていた。
 そもそも使命感のようなものが芽生えると、その重圧に押し潰されそうになるか、それまで何も考えていなかった自分を顧みて、見つけられなかった目的を見つけることができるのかのどちらかであろう。
 さすがに子供に、遠い将来の重圧やプレッシャーなどを感じることはないであろうから、あるとすれば、将来の目標がハッキリしたことへの喜びであろう。
 だが、子供によっては、皆が思っていることを自分も一緒に思っていることを知ると、急に意識を変えてしまう子供もいるだろう。天邪鬼といってもいいかも知れないが、自分だけにしかできないことを模索しようとする。
 確かにサッカーの代表選手など、なりたいと思ってもなれる人は本当に一握りの人だ。だから皆が一緒に目指す高みの中で揉まれることをよしとしない人もいるに違いない。
 それなら、まったく誰も考えないようなものを目指して、パイオニアになるというのも一つの考え方だ。
 しかし、そんな考え方というのは、大人が見ていると、そういうのを天邪鬼というのだろうと勝手に邪推する。下手をすれば子供の限りない可能性の芽を摘んでしまうことになるということを分かっていない。
 特に近親者になればなるほど、
「子供には、人に勝つ負ける関係なく、人から好かれる人になってほしい」
 と望み、
「そのためには、平凡でもいいから、平均的になんでもこなせる子供がいいんだ」
 という思いで子供を育てようとする。
 子供によっては、そんな親に反発する子供もいる。最初に親に歯向かった理由の中で、こういう親の子供に対する考え方が、どうしても気に入らないという思いで、親に逆らっている人も少なくないという。もっとも、子供自身でどこまで自覚しているのか、よくは分からないが。
 小学生でも高学年に入ると、友達の中で次第に上下関係ができてきて、さらにその上下関係にも入りきらないような生徒も出てくる。そんな彼らに待っているものは、
「苛め」
 だった。
 まだ、小学生の頃だったので、苛めもひどくはなかったので、門倉はいじめられっ子を擁護していた。
 そのうえで、
「苛められるのはお前の方にも理由がある」
作品名:過去への挑戦 作家名:森本晃次