小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

INDEX|23ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

昭吉  「(電話口)いいか、和田。見つかるまで帰ってくるな。いいな」
和田  「はい、かしこまりました」

室内のインターホンが鳴る。
何度も鳴るので仕方なく通話にする昭吉。

昭吉  「どちら様?」
青山父 「青山です、笠戸の。千晶の父親です」

インターホンの画像に、ジュラルミンケースを提げた青山千晶の両親が映る。



摩耶大学天根研究室
ホログラムの立体脳磁図が局所的に発光している。

天根  「高橋さん、ご気分はいかがですか?」
井上  「気分はとくに悪くありませんが・・・」

自分の手や肘をさする井上。

井上  「ただ声が変なんです」
天根  「しばらくモニタリングするので、高橋さん、お楽になさっていて下さい」

佐伯に目くばせする天根。
複数の脳波グラフを目で追う佐伯。

遠藤  「わかりました。仮にトランシングが現実のものだったとしましょう。当時、友也のエスが馬場巡査にトランシングしていたと、なぜ言えるのですか? どうやってそれを証明するんですか?」
政岡  「証明の方法は・・・わかりません」
遠藤  「そうでしょう。友也が人殺しをするはずがない」
政岡  「友也さんがトランシング状態にあるかどうかはわかります」
遠藤  「どうやって?」
政岡  「ゾンビ状態であるかどうかを診るのです。ゾンビ状態であるか否かは、脳波を測定すれば・・・」

突然、黒スーツ姿の公安警察官が五人、ドカドカと研究室になだれこんでくる。

公安  「たった今、この時刻をもってこの研究室は閉鎖されます。ここにある研究機材、研究データはすべて日本国政府の管理下に置かれます」
天根  「なんだ、君たち。出ていきたまえ!」
公安  「天根与四郎教授、佐伯道雄助手、政岡エミリーさん、あなたたちは我々の指示に従っていただく」
佐伯  「何なんですか、いきなり。この人たちは?」

公安警察のあとに続いて平松が静かに入室する。

政岡  「(平松に気づいて)・・・学長・・・」
平松  「官房長命令なの。政府の決定よ。従ってちょうだい」

耳を疑う天根。
毅然として天根たちを見下ろす平松。

天根  「学長、あなた、いったい・・・」

愕然とする天根。
唖然とする佐伯。
別の扉から遠藤を廊下に逃がす政岡。
廊下を渡り正面玄関から出ていく遠藤。
正面玄関車寄せに一台の公用車。
車の前に永井が立っている。

遠藤  「永井本部長・・・」
永井  「遠藤監査官。やはりここでしたか。いや、先ほど中央から連絡がありましてね。さる政府の高官があなたに会いに来られると。こちらで暫くお待ち願えますか」

大学職員に先導されて来賓応接室に通される遠藤。

永井  「こちらで暫く・・・」
遠藤  「あ、あの、高官とは・・・」

ドアを開けるとすでに永井の背中は遠ざかっている。
体格に良いSPがひとり廊下に立ち、部屋の張り番をしている。
来賓室の大きな窓にもたれ、神戸港の果てに沈む夕陽を眺めて溜息をつく遠藤。



ティーンズカジュアルショップ
かわいいアイテムに吸い込まれるように店内に入る千晶。
見たこともない洋服やアクセサリに興味を示す千晶。
千晶と少しずつ距離を詰め話しかける店員。

店員  「(千晶に)これなんか似合うと思うんだけどなぁ。ねぇ、買わなくてもいいから試着だけしてみて、ね」

お金を持ってないと拒否するが店員に強引に試着を迫られ、押し切られる千晶。
ふたつ、みっつ着替えて鏡に映す千晶。

千晶  「やっぱり、いいです」

帰ろうとする千晶に、

店員  「いいのいいの。こっちこそ無理言ってごめんね。あっそうだ。今夜女の子だけのパーティがあるの。ライブとファッショショー。これ(フライヤーを見せて)そこの角曲がったとこの地下のクラブ。よかったら来てみて。女の子オンリーだから絶対大丈夫、ね」

手渡されたフライヤーをポケットにしまい店を出る千晶。



摩耶大学・来賓応接室

数回のノックと共に永井が入室する。
永井は黙ったまま全ての窓のカーテンを閉める。
退室間際に遠藤に“お見えになった”と小声でいう。
暫く間が空いて高級スーツを着た男が入ってくる。
男の顔を見た途端、驚いて背筋を伸ばす遠藤。

遠藤  「氏家長官・・・」
氏家  「君が、遠藤博之監査官ですね」

慌てて下座に立ち位置を変える遠藤。
カーテンの隙間から外を見ながら切り出す氏家。

氏家  「遠藤さん。弟さんのご様子はいかがですか」
遠藤  「はい。一進一退で」
氏家  「両足切断したと聞きましたが・・・」
遠藤  「重篤な状態が続いています」
氏家  「つらいですね」
遠藤  「生きているのが奇跡だと、先生たちはおっしゃってます」
氏家  「奇跡、ですか。奇跡といえばそうかも知れない。今、その小森友也くんを巡って色々奇跡的混乱が起きているのはご存じかな」
遠藤  「弟を巡る混乱? 弟は病院のベッドの上で意識の混濁を繰り返しながら苦しんでいます」
氏家  「はい、確かに。ところがある一部の専門家たちはそうは思っていない」
遠藤  「意味がわかりません」

マホガニーのアームチェアに腰掛ける氏家
勧められてソファに座る遠藤。

氏家  「日本国政府、アメリカ政府及びヨーロッパ各国ともトランシング現象には否定的な立場をとっています。つまり存在自体を認めていない。ただ研究は各国とも極秘のうちに進められています」
遠藤  「すると、もしかして天根博士が・・・」
氏家  「そうです。幸か不幸か、天根教授の研究室が、世界に先駆けて初めて実験に成功したというわけです」
遠藤  「それは、喜ばしいことではないのですか」
氏家  「本来そうあるべきです。しかし日米同盟がある以上、独自の研究成果といえども、アメリカの意向を無視することはできない」
遠藤  「おっしゃっている意味がわかりません」
氏家  「アメリカ政府は、トランシングがスパイ活動に転用されるのではないかと危惧しています」
遠藤  「・・・」
氏家  「トランシング技術が第三国の手に渡り、破壊活動に利用されれば世界が大混乱に陥る。わが国も同じ見解です。それはわかりますね?」
遠藤  「なんとなく理解はできます。ですが長官、なぜそのことを私にお話しなさるのですか」
氏家  「向こうは研究成果の引渡しだけでなく、現在起きているトランシングにまつわる事件のすべてを闇に葬ることを要求してきました。つまり小森友也くんのエスを抹殺せよと」
遠藤  「エス? エスって何なんですか」
氏家  「言ったでしょう。その存在は極秘扱いされて理解している者はごく少数」
遠藤  「友也のエスを抹殺する・・・ということは?」
氏家  「はっきり言いましょう。小森友也は放置できない危険因子なのです。我が国にとってもアメリカにとっても」
遠藤  「あいつは、友也は心優しいだけのバカです。大それたことはしません」
氏家  「遠藤くん。すまないが今後のことは彼に従ってもらいます」

迷彩服を着た筋肉質の大男が壁際に立っている。

氏家  「自衛隊特殊部隊隊長の枢木一佐です」

背筋を伸ばして敬礼する枢木。