端数報告3
ようにわかった顔をしてものを言ってる人間達の言葉を聞いてコロナについてわかった気になってるのならばそういう計算になる。お上があなたがそこにいるのがただ目に止まっただけの理由でいきなり捕まえて、鼻の穴に綿棒突っ込むことはないとあなたは信じていられる。
ニューギニアのオーエン・スタンレー山脈は、その昔にオーエン・スタンレーという男が眺めて、
「あの山脈にオレの名を付けるぞ」
と言ったから今の名前になってるのだろう。おれがジャヤ山の神ならば、ハーロックよりこいつに雷を落とすところだ。マラリア蚊の大群にでも血を吸わせるか、大蛇でも送って丸呑みにさせるところだ。しかし、木と布で出来た複葉機で自分の上を飛び越そうとするだけのやつを別にあざ笑ったりしない。
それどころか、「えっ、そんなんでやれるのか? 頑張れ、頑張れ」と思うんじゃないかな。おれなら――と、そう思うんだが、何が言いたいのかと言うと、つまり以前に見せた、
画像:グリコのネオンを見上げる上川
これなんである。おれは前にこの画のことを、
画像:スタンレーの魔女部分拡大
これみたいだと書いたけれども、〈グリコ・森永事件〉の犯人グループは、
画像:かい人21面相の最後の手紙
最後にこの手紙を出してそれきり犯行をやめた。再現ドラマで上川隆也が演じていた〈ミスター・グリコ〉と呼ばれた〈読売新聞〉の記者には、この文面に〈キツネ目の男〉が笑う顔が重なって見えるらしい。行間からあざ笑う声が聞こえてくるらしい。松本零士の『スタンレーの魔女』は、
「(略)スタンレーの魔女は、自分に挑戦して、そして死んでいった空の男たちのことを思いだし、今も、笑っているにちがいない……」
と書いて終わる。上川主演の再現ドラマは、
「かい人21面相は、今も、笑っているにちがいない……」
と言って終わる。本当にそうだろうか。おれはこのドラマを見た時、「そうかな」と思った。事件の時には高校生で、何が何やらわからないだけであった話の核心が、これを見た時わかった気がした。
特に、最後に寄越された手紙だ。文にちょっと手を入れたうえで書き出してみよう。
*
国会議員の皆さんへ。
あんたら忘れっぽいな。
わしらの法律どないなっとるねん。
早よ、死刑入りの作ってや。
滋賀県警本部長の山本が、焼身自殺しちまいよった。
滋賀にはわしらの仲間もいなければアジトもないのにアホやな。
山本が責任感じることはない。死ぬんやったら兵庫県警のヨシノか大阪府警のシカタやで。
やつら、1年と5ヵ月も何しとんねん。
わしらみたいなワルをほっとったらあかんで。
真似するアホがまだ仰山おる。
叩き上げの山本が男らしゅうに死によったさかいに、
わしら、香典やることにした。
食いもんの会社イビるのもう止めや。
この後に脅迫するもんがいたら偽物や。
ご優秀な警察に届けたらええ。
大学出のヨシノやシカタが適宜計らってくれるで。
わしら、悪や。
食いもんの会社イビるの止めてもまだなんぼでもやることはある。
悪党人生おもろいで。
かい人21面相
*
こうだ。ちなみに〈シカタ〉というのはもちろん、
画像:四方修
このおっさんのこと。〈インパール作戦〉だって決して牟田口廉也ひとりだけが悪いわけではないはずだが、牟田口廉也がいちばん悪いことは確かなのだろう。
グリ森事件の迷宮入りもこのおっさんがやっぱりいちばん悪いんじゃねえかな。犯人自身にこんな手紙を書かれるようじゃあ、そうとしか、やはりおれには思えんよ。〈ヨシノ〉というのは兵庫県警の本部長らしいが漢字でどう書くかはわからなかった。当時の新聞細かく読みでもしなけりゃこれはわからんのじゃないかな。
さて、文を読むとわかるが当時は事件に便乗して企業にユスリをかけたヤクザが結構いたんだろうな。しかし犯人・かい人21面相は、その場合は恐れることなく警察に届け出ろと各企業の人々に伝えていることになる。
そのうえで自分達を〈悪〉と言い、「悪党人生おもろいで」と書いて犯行を終えているがこれは本心なのだろうか。
おれにはそんな気がしない。犯人達の哀しみの顔が見える気が、
「何ひとつうまくいかなかった。こんなはずではなかった」
という嘆きの声が行間から聞こえてくる気がするのだけれどおれが間違ってるのだろうか。
〈グリコ・森永〉を語る者は、おれを除いて他にひとりの例外もなく、
「かい人21面相は、今も笑っているにちがいない」
と言う。すべてを守備よくやってのけ、億単位のカネを手にしているはずと言う。たとえばこの、
アフェリエイ:レディ・ジョーカー
という小説を書いた高村薫という作家がそう言ってるし、高村薫が言うことだから絶対間違いあるわけがない、という話になっている。世間の中でおれだけが違うことを考えるのは、おれが間違ってるのだろうか。かもな。まあ、どっちみち、
ヤマト航海日誌
https://novelist.jp/71614.html
これに書いて出している『小説:グリコ・森永』こそが事件の真相だと断じる気もないのだけれど、それは別として〈グリ森事件〉の犯人は実は別にいると思う。おれが思う真犯人は、
画像:加藤譲
この男だ。再現ドラマで上川隆也が演じていた〈ミスター・グリコ〉と呼ばれた記者。こいつが〈禍〉ではない事件を〈禍〉に仕立て上げた。犯人達の思惑を超えて事件を大きく見せかけ、ノストラダムスの〈恐怖の大王〉が来たかのような演出をした。〈波〉だ。最初のグリコ社長誘拐が『仮面ライダー』の〈地獄の軍団・ショッカー〉の怪人○○男による計画の第1波。次に第2波が来て第3波が来る。そして第4波・第5波と、次から次により大きな波がやってきて日本全体が〈彼ら〉の起こす津波に呑まれてしまうものと大衆に信じ込ませた。
それをやったのがこの〈ミスター・グリコ〉であり、その意味でこいつがいちばん悪いんじゃないのか、というのが再現ドラマを見たおれの感想なのであるが、もちろんこれは、
※個人の感想です
というのをお断りしたうえで、それにしてももう既に話が長くなっているな。今日のところはこのあたりで終わりにして、続きはまた今度にしよっと。とりあえず、時効成立時にこの〈ミスグリ〉が書いたという署名記事をお見せするので、赤で囲った部分に注意して読んでおいてください。それではまた。
画像:時効成立時の加藤譲の署名記事