端数報告3
キキガ……ジカンガ……ハヤク……ダレカガ……
スタンレーの魔女は今も笑っているにちがいない、というのは松本零士という人間がマンガに描いただけの話だ。そもそも〈ジャヤ〉はニューギニア西部の山で、オーエン・スタンレー山脈の山でないのを無理矢理にそこに移して話を作っているのだけれど、それはいいとして〈ジャヤ〉にもしも心があれば、人を笑っているかどうかわからない。昭和の昔にニューギニア東部で繰り広げられた戦闘を、嘆きの眼で眺めていただけかもしれない。
「ニンゲンという生き物は、なんと愚かなのだろう。アングロサクソンとかいうのと、ニッポンジンというのとが、互いに神に選ばれた民のつもりで殺し合っているのか。どうしようもねえ……」
そう思っていたのかもしれない。〈ジャヤ〉がどう思っていたかはわからないけれど、当時にニューギニアの原住民が、
画像:爆裂弾道交差点最終ページよりニューギニア原住民のコマ
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こう思っていたに違いないし今も笑っているだろうことは、上のリンクから本を買って読んで確かめてください。あるいは、〈ザ・コクピット〉の『爆裂弾道交差点』が収録された別の版を探してどうぞ。
「コロナの感染が拡大すれば第2・3波が来る」という言葉は、明らかになんの根拠もなしに語られている。みんなが言うからそうなのだろうとみんなが思っているだけだ。アングロサクソンとニッポンジンは、互いに自分の国がある半球を地球の〈表側〉として、反対側を〈裏側〉と呼んだ。今でもそうだ。日本では、
画像:『ヤマト』エンドクレジット・企画構成西崎義展
こんなようなのが毎日「天皇陛下バンザーイ」だし、裏っ側も似たようなもの。アングロサクソンがグリニッジの天文台がある経度を勝手に本初子午線にするから日本の皇居は東経139度に位置することになる。そのおかげで日本は最初に朝日を見る国にもなるが、これをして、
「許せん。裏側の分際で」
と誰かが言って「そうだそうだ」と皆が頷けば戦争だ。石原莞爾はうまいことやった。〈八紘一宇〉は本来が意味らしい意味を持たないバズワードであったようだが、日本を中心にしてこっち側の半球全部、天皇陛下のものだという定義付けをする。そしてこちら側が〈表〉だ。
そこに〈裏〉の世界から、侵略者がやって来る。アングロサクソンの連合は白い彗星の連合だ。進路にある邪魔な国々を吸い込み、ひしゃぎ、粉々に粉砕していく魔の巨大連合。また一方、利用し得ると思われる国に対しては、そのどこからか強力な前衛艦隊が飛び出してきては、攻撃と侵略を繰り返し、彼らに従属する植民地として、人々を奴隷にしていったのである。ダーダダーダ、ダーダーダー(パイプオルガンの音)。イマ……ワタシタチノ……キョダイナ……アナタガタノ……カモシレマセン……キキガ……ジカンガ……ハヤク……ダレカガ……コノ……ツウシンオ……ハヤク……タチアガッテ……。
*
古代「救いを求めてるんじゃないのか」
島「発信源はわかりませんか」
真田「ここのコンピューターでは出力が足りなくて」
古代「なんとか、手を打つべきだ。もしこれが、宇宙のどこかで想像もし得なかった異変が起こっていて、それを報せようとしているんだとしたら」
真田「否定はできん」
古代「(略)だとするとその災害の大きさは」
真田「よし、早速防衛会議に提出して、検討してもらうことにしよう」
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が、会議に出したところが、
*
「しかし長官、こんな不確かな情報で政府が動くわけにはいかないよ」
「やれやれ、人騒がせな話は、いいかげんにしてもらいたいもんだ」
アフェリエイト:さらば宇宙戦艦ヤマト
となるのが本当ならば当たり前なはずだが、しかし八紘一宇なので、昨日までバズワードだったその言葉が【地球のこちら半球は全部天皇陛下のもの】という意味になってしまっていて、昭和天皇陛下自身が「ウムウム」と言って喜んでいる。ゆえに、
「それはお前がひとりで勝手に決めたんだよな。何を根拠に」
と問う者がいない。問うことができぬ仕組が出来上がっている。
すると戦争になってしまう。太平洋に欧米人の船がいれば、突っ込んでっちゃう〈愛の戦士〉気取りのやつが大量に出ることになるのだ。人間の命だけが、邪悪な暴力に立ち向かえる最後の武器なのだ。天皇陛下バンザーイ。西暦千九百四十五年。大和は永遠の旅に旅立っていった。大和を愛して下さった皆さん、さようなら。もう二度と姿を現すことはありません。でも、きっと、永遠に生きているでしょう。あなたの胸に。心に。魂の中に……。
西暦二千二十一年。今の日本で起きているのはそれとまったく同じである。
〈第2・3波〉というのは明らかにバズワード。誰かがなんの根拠もなしに口にしたのがひとり歩きし、増殖した。定義がないのに定義があるかのように錯覚され、来れば人が死ぬという。
それが信じられているが、どうして? 何が起きると言うのだ。感染が拡大することで何が引き起こされるというのか、それを説明した者がいるか。東京都で感染者の一日の確認数がコロナの目標とする数に達したときに「今だ」とウイルスどもが叫んで全員を発症させ、「ウギャアアア」と百万人がもがき苦しみながら死ぬとでも言うのか。ニュースに出るウイルス学者の言葉は、そうとでもまるで言ってるように聞こえる。
それとも、感染者が日に2447人までなら何事も起きないのだけれど、2448人が確認されるとコロナが一斉に変異して、致死率100パーセントの空気感染ウイルスになり、東京都民1300万がその日のうちに全員死んで、翌日に日本国民が全員死んで、一週間後に全地球人類がひとり残らず「ウギャアアアア」ともがき苦しみながら死ぬとでも言うのだろうか。ニュースに出るウイルス学者の言葉は、そうとでもまるで言ってるように聞こえる。
はっきりそうは言わないだけで、そう言ってるように聞こえるし、そうとでも言ってるようにしか聞こえない。ついこないだまで、
「今日の東京の感染者80人。これはいつ第2波が起きても不思議のない数字と言えます。80人ですよ、80人! 東京都で80人! これがどれほど途轍もない数字なのかおわかりでしょうか! 〈スペイン風邪〉や〈黒死病〉など問題にならないほどのパンデミックということなのです! 80人! 危機が! 時間が! 早く! 誰かが! 80人! こんな、こんな恐ろしいことが現実になるとは、ああまさか! これはこの世の終わりだ! この世の終わりが来てしまったということなんだあっ!! うわあーっっ!!! わあああ――っっっ!!!!!! 80人! 80人だなんて、そんなあああああああああああああああ」
なんて言ってたのが一日100になり200になり、500になり1000になり、2447人になっても何も来ないようだがそれはいいとして、一日80くらいのときにああ言ってたのはなんだったのか。
あなたはまともな説明を聞いたことがありますか。去年8月の一時的増加が一般に〈第2波〉と呼ばれているが、それは一般の話であって、池上彰が、