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画像:カジンスキー逮捕時
 
こうなっていた。夜神ライトも50過ぎまでノートによる殺しを続けていたならば、きっとこうなるに違いない。高邁な目的なんか最初からなく、ただ目についた人間が気に食わなかっただけの理由で遠隔殺人を行っていた。自分はそれをしていい者、というラスコーなんとかな考えのもとに。
 
ちょっと共感できなくもない。おれだって似たところが少しはある。自転車に乗ってて前をスマホをいじくりながら横切るやつがいたら殺してやりたくなるよ。テクノロジーや機械の問題ではなくて、人間の尊厳と自立性の問題としてね。
 
そう感じるが、しかしもちろん決してやらんし、死神のノートをたとえ持ったとしてもやらないだろう。だがセオドア・カジンスキーは、何十回もやって正当化の文章を、日本の文庫本にして150ページにもなる長さで書き連ね、新聞社に送ってそれを掲載しろと迫った。
 
結果的に《You can't eat your cake and have it too.》という文のeatとhaveの順序が変なところをフィッツに見つけられ、それをもとに家宅捜索令状が出た。捕まって言うのが、
 
   *
 
「じゃあこのへんで、わたしが最近知った興味深いことを話そう。確か、〈毒樹の果実〉と言ったかな。(略)令状が発行された根拠に何かしら問題がある場合、捜索によって得られた押収物は〈毒樹の果実〉とみなされるんだ。不正に取得した穢れた証拠ということで立証能力がまったくなくなる」
 
画像:マンハント番組タイトル マンハント:謎の連続爆弾魔ユナボマー第3話
 
だって。ハン?と聞いて思った。
 
毒樹の果実? 最近知った? って、それって、ひょっとして、〈O・J・シンプソン事件〉で知ったとかじゃあねえだろうな。ユナボマーの声明文が新聞に掲載されたのは前回書いたように1995年9月。
 
OJが無罪評決で自由になったのはその翌10月のことである。《検察の出す証拠は不正に得られたものだから、たとえ本当に妻と間男を殺しいていてもOJは無罪》というのはあの裁判でも弁護側は言ったはずだ。それが通ってアメリカで初めて黒人にシロの判決。
 
こいつ、〈毒樹の果実〉ってそっから拾って誰にでも当てはめられると思ったんじゃねーだろーな。OJシンプソン事件の場合にそれが通ったのは、事件がOJシンプソンの事件だったからだろう。日本で言えば志村けんが妻と間男を殺したようなもんだから、「それでも志村はやってない」と叫ぶ人間がワンサと出る。裁判員に選ばれた者が〈毒樹の果実〉というのを聞けば、わからなくてもそれに飛びつく。
 
ことになるかもしれないけれど、OJシンプソンでない黒人の裁判で決して通らない話だし、麻原彰晃が痩せたようなおっさんの裁判でそれが通るか。
 
あやしいもんだよな。と思うけどFBIは、罪状認否で罪を認めさせたいらしい。陪審員裁判はできることならやりたくない。と、そりゃもちろんそうだろうがどうやって、というのがおれがこれから見る『マンハント』最終回の内容らしいが、どうなるんだろ。まあとにかく、
 
 
 
家宅捜索令状が発行された根拠に果たして問題はないのか。
 
 
 
と言われて思い出すのは、おれの場合はなんと言っても草?剛の全裸事件だが、皆さんはどうですか。あの一件で警察は、家宅捜索を行った。それは当然、裁判所が令状を出したからだろうが、その根拠に問題はないのか。
 
結果として麻薬か何かもしも出てきたとして、それは裁判で証拠になるか。この日本でも弁護士が〈毒樹の果実〉だとかなんとか、叫ぶことにならないか。麻薬があっても無罪というのは有り得ぬ話じゃない。たとえば刑事の中にひとり、白い粉の小袋を持って入って机の上にでも置くのは簡単なことなのだから、
 
「警察はそれをやったに違いない」
 
と弁護士が言ったなら、「そうだそうだ」とみな言うだろう。おれも言う。必ず言ったね。あの件では――しかし、その後で、社会は果たしてどうなるか。
 
あの一件での家宅捜索令状は、そんなことまで考えたうえで出たものなのか。違うよな。ボンクラどもが何ひとつ考えずやったに決まってる。人間の価値は学歴と、肩書きにより決まるのだ。ワタシは○○大学卒で、警察組織の中のエリート。そして裁判所の人は、司法試験合格のエリート。そうだ、学歴と肩書きなのだ。それを持つのがいちばん偉いということを、この機会に下流民どもに思い知らせてやりましょう。
 
という考えで出たのが草?の令状だった。その尻馬に乗っかって、
 
画像:もしくは勝手に開けて食べられたらえらいことやしね 森永物流部長 青井実
 
こんな顔した人間達がそうだそうだと勝ち誇り、鬼の首を獲ったように吠え立てた。芸能人やスポーツ選手がなんぼのもんや。世の中は学歴と肩書きや。それを持つ者が偉いんや。
 
と言えば一般庶民がみんな、それを悟ると思い込んだわけだ。栗山千明や志村けん、草?剛と違って俺は専門家だ。専門家は替えが利かない。だから偉い。世界に何かあったとき、救いの主となるのは俺だ。
 
と言えば一般庶民がみんな、それを悟ると思い込んだわけだ。素人目にも不正な家宅捜索とわかるものがだからわからず、嵩にかかって識者ヅラした口を揃って叩きまくった。
 
その同じ人間達が、今にコロナで同じことをしている。テレビに映る機会を持つが学歴と肩書きによってそれを持つ。才能によって持つわけでない。〈コロナの禍〉とはそんな人間達にとっての数寄屋橋の歩道であり、だから一等一億円は必ず出ることになるのだ。それを引くのは自分だということになってしまうのだ。
 
だからセオドア・カジンスキーと、〈酒鬼薔薇聖斗〉の文も読んでわかったふりをする。心理学者やプロファイラーが「高学歴の者が書いた」と言うから、高学歴の者が書いたもんだと思って、
「おもしろい」
とか、
「共感できる」
だとか言う。普通の人には退屈なだけのものかもしれませんけど、ボクにはおもしろいですねえ。これを書いたのは天才ですよ。どんな人か知りたいなあ。
 
だとか言う。セオドア・カジンスキーは天才ではあったという。電気もガスも水道もない山小屋でひとり暮らしする男だった。が、それを言うならば、おれが書いた、
 
画像:セントエルモの灯
https://2.novelist.jp/68292.html
 
これの主人公だって、話が始まる最初のところでは貨物輸送機の機内からほとんど出ない半引きこもりの設定だ。そういうキャラが現代では共感を得ると思ったからそうした。
 
我々にはユナボマーと似たところがある。彼のような手段は取らぬが、不満には共感できる。と、こないだ書いたのと逆のことを書いてしまうが、しかし程度の問題であって、ロバート・ライトという野郎はなんに不満を持ってるのやら。TVアニメ『スーパーカブ』の礼子というキャラにしても、一体何が不満なのか。
 
 
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之