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「ぼくは社会不安型テロっていうふうに言ってるんですけれども」
 
と言うとこのボクちゃんが、
 
   *
 
「社会不安型テロ」
 
画像:青井実アップ2
 
と、こんな顔して頷いて聞いて、またひとつ、フォースの力を獲得したルークのつもりになってしまう。
 
〈社会不安型テロ〉だとか、〈怨恨〉だとか、〈株価操作で何千万か稼ぐためにやったこと〉とか、はたまた、
 
〈北朝鮮工作員による『ウルトラセブン:狙われた街』的謀略説〉
とか、
〈被差別部落民による『ウルトラセブン:ノンマルトの使者』的奸計説〉
とか、
〈警察組織に不満を持つ人間が内部からの制度改革を目指して行ったクーデターで、一味のひとりは大阪府警捜査一課の刑事だったのだレディジョーカー!〉
 
アフェリエイト:レディジョーカー
 
だとかいった調子の話の果たしてどれかひとつでも、あの事件の不可解性を説明できていると思うか。
 
できてないなら、どれもが全部、陰謀論者の世迷い言と断ずべきでないのか。
 
それに対して、おれの、
 
 
     〈プロレス説〉
 
 
ならば、不可解性の説明ができちゃってるんじゃないのかな、と思っているところなんだが、それはさておくとしてコロナである。今やもう、他に誰もいない道でも人はマスクを着けて歩く。マスクを着けて歩かないと〈波〉が来る、と言われるから、従うしかなくなっている。人は支配され、心の自由は失われた。
 
 
「そんなもん来ねえよ。来るわけがねえ。一体その《感染が拡大すると〈波〉が来る》ってのは、どういう科学的根拠のもとに言ってるんだ」
 
 
と本当に正しいことを言う人間がおれの他にいないから。おれはテレビでこれを言える立場にない。だからおれがいるこの環境で自分がやれることをするだけだけど、テレビの中で早口でまくしたてる者達がこれを知ったら間違いなくおれを狂人とするだろう。それはおれが正しいからだ。やつらの頭は眠っていて、自分だけが一等一億の宝くじに当たった者になる夢を見ている。
 
おれは目覚めている。《感染が拡大すると〈波〉が来る》という言葉にはなんの根拠もない。それがわかっている。考えてみろ。あなたがこれを読んでいるこの間にも、コロナが殺した人数以上の人が自殺しているのだ。コロナの肺炎で死んだのでなく、コロナについてテレビが語ることのために死を選ぶしかなくなる者だ。なのにどうしてコロナを恐れる。
 
アメリカは〈病める大国〉だから、抗鬱剤やなんやかんやでコロナで死ぬより多く死んでる。なのにどうしてコロナを恐れる。S・キングの『クージョ』だの『IT』についてちょっと書いたが、他に『ミザリー』というものでは、作中作「ミザリーの生還」第一章の文章として、
 
   *
 
(略)シャインボーンの診断によると、深夜の冷雨に搏たれて溝の中に横たわっていたのだから、肺炎になるおそれ充分であるという。しかし、すでにあれから三日、いまだに発熱も咳の発作もなかった。肺炎にはならないだろう、と彼は思っていた。(略)
 
アフェリエイト:ミザリー
 
こんな文がある(文春文庫版199ページ)。同じ本の63ページには、
 
   *
 
「アニー、一八七一年には、女の人が出産で死ぬことは珍しくなかったんですよ。(略)」
 
アフェリエイト:ミザリー
 
こんなセリフもある。さらにこのアニーというのは過去に何十人も人を殺している設定なのだが、手口のひとつに階段に物を置いて転落死さす、というものがあり、それが、
 
   *
 
(だれもその二件の転落死を結びつけて考えた者はいなかったのか。最初が父親で、次がルームメイトだ。おまえは本気でそう考えているのか?)
 そう、彼は本気で考えていた。二件の転落死はほぼ五年のあいだをおいて、ちがった土地で起こっている。それを報じたのも、それぞれべつの新聞だし、しかも階段から転落して首の骨を折る事故など、とくに珍しくもないにちがいない人口の多い土地のニュースなのだ。
(それに、あの女はじつに巧妙だった)
 
アフェリエイト:ミザリー
 
こう記述される(文春文庫版288ページ)。日本に一億数千万。世界に何十億という人口があれば肺炎や階段からの転落で死ぬ人間が何百万もいるのは当たり前で毎年のことだ。多くない。それは全然多い数字なんかじゃない。出産で死ぬ女の数もゼロになったわけではない。貧しい国や階層では、今も大勢が死んでいる。数が例年と変わらないなら〈禍〉ではなく、別に巧妙な殺人鬼がそれをやってることにはならない。
 
だろう。しかしそんな簡単なことに気づく人間がいないため、まるでペストや天然痘が、感染力と致死性を遙かに増して帰ってきたかのように言い立てられ、〈波〉が来たときに全人類が死ぬかのように叫ばれる。
 
ただし、防げる者がいる。それは自分だ、自分だけだ、という言葉を添えて。テレビで話した俺様の顔と名前を誰ひとり、忘れることはないだろう。〈禍〉が終わったときに誰もが、俺を思い出すだろう。だって○○大学卒の××にして△△で、□□で☆☆な人間が、テレビで「手洗い励行」と言ったんだものな。そうだよな。
 
そのおかげでみんなが手洗いするようになり、多くの人命が救われたんだ。それに絶対間違いないから、誰もが俺を讃えることは間違いない。
 
というような錯覚をする人間の顔が、
 
画像:青井実
 
これである。IQは知能を計る物差しだけど、人は愚かな生き物だから、知能が高くなるにつれてむしろ愚かさが増していく。ユナボマー事件の犯人、セオドア・カジンスキーの少年時代の顔は、
 
画像:カジンスキー若い頃
 
こうだった。まるっきり『デスノート』の夜神ライトだな。『罪と罰』のラスコーなんとかで、フォースのダークサイドに堕ちたルーク・スカイウォーカー。しかし、夜神ライトの場合は殺す相手が凶悪犯罪者だった。
 
だから結構、最初のうちは見ていて共感できなくもない。おれは原作は読んでいなくて見たのは映画とアニメ版だが。
 
しかしセオドア・カジンスキーは、むしろ『ミザリー』のアニー・ウィルクス。『スラン』の続きが前回の終わりと違うとか結末が気に食わないからと言って、作者のA・E・ヴァン・ヴォクトを殺しに行きかねない女だ。『スラン』という小説は、また巻末の〈訳者あとがき〉から引用すると、
 
   *
 
『スラン』はアスタウンディング誌の40年9月号から、四回にわたって連載された。この長篇のアイデアにいたく感銘した編集長キャンベルは、これに「ノヴァ・ストーリー」の称号を与え、読者はスランの天才少年がたどる運命に、四ヵ月間一喜一憂した。当時の読者の熱狂ぶりは、同誌が毎号行なう人気投票はじまって以来の1.00という完全得票を獲得したことでもうかがわれる。つまり、投票した読者全員が『スラン』を一位に推したわけで、この記録をうちたてたのは、ほかにレスター・デル・レイの『神経線維』(42年)があるだけである。
 
画像:『スラン』表紙
 
とまあ、まさに『ミザリー』にして『デスノート』。しかしセオドア・カジンスキーは、若い頃には夜神ライトだったけれど、50を過ぎて捕まった時には、
作品名:端数報告3 作家名:島田信之