小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

端数報告3

INDEX|30ページ/65ページ|

次のページ前のページ
 

おっさんが大阪の捜査本部長になり、事件を兵庫県でなく大阪のものにするためやったことではないか。解決したとき自分の手柄とするために、ただそれだけの欲望のために……そんな話もしましたが、前々回に「その続きを書く」と書いたけれども予定を変えて、今回はこの放火の件をもう少し掘り下げてみたく思います。
 
前々回におれはおれが考える犯人像と放火とは合わないから違うということにしたい。ニュースを見て刺戟を受けた無関係な人間がやったことだということにしたい、と書いた。あくまでおれがそういうことにしたいからそう言うだけでもあるのだが、と。
 
けれども、
 
「そうか? そいつらは愉快犯で、事件は劇場型犯罪なんだろ? ならば放火もやりそうなことなんじゃないのか?」
 
とあなたは読んで思ったかもしれません。
 
うん。この事件を語る者は、大抵そういう考えのようだ。愉快犯で劇場型犯罪だから放火もする、と。けれどもおれの場合は何しろ、
 
画像:グリコのネオンを見上げる上川
 
このネオン看板を浅草の雷門に対抗して、という冗談で始めたイタズラの計画が、ミスグリ加藤や四方修のせいで思わぬ方向へ……という考え方なもんだからね。合わない。何度も言うように彼らは、
 
   *
 
(略)ふつうの人間に比べてむしろ陽気でノリのいい人種(略)
 
画像:初等ヤクザの犯罪学教室表紙
 
でなければならないのだ、おれの場合には。
 
そういう人種が放火というのは考えにくい。アカウマなんかを仲間に入れるというのもちょっと。浅田次郎・著『初等ヤクザの犯罪学教室』には他にも、
 
   *
 
(略)「強盗」は有期刑ですが、「強盗殺人」となりますと、無期懲役がふつう、まかり間違えば死刑にもなりかねません。仮に成功しても、後々仲間からは気味悪がられて、おいしい話にも混ぜてもらえなくなります。
 
画像:初等ヤクザの犯罪学教室表紙
 
と書いてあるのは前に見せましたね。放火は殺人と並んで刑が重く、刑法第一○八条に、人が住んだり働いてたりする建物に放火すると、
《死刑又は無期懲役若しくは五年以上の懲役》
とあって決して執行猶予はつかない。おれが考える犯人像の者達ならば嫌うし避けるはずなのだ。
 
グリ森事件の放火では、ウィキによると、
 
   *
 
1984年4月10日20時50分頃、大阪府大阪市西淀川区の江崎グリコ本社で放火が発生。火元は工務部試作室であり、火は棟続きの作業員更衣室にも燃え移り、試作室約150平米は全焼。
 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%BB%E6%A3%AE%E6%B0%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 
こう書かれ、《火は棟続きの作業員更衣室にも燃え移り、》ってんだからおっかない。お菓子の試作室が火元ってことは、砂糖とか小麦粉とかの粉塵が爆発的に燃えでもしたのか。火薬も同じだな。人がいたら死ぬか大火傷(おおやけど)必至じゃないか。
 
そうはならなかったのが不幸中の幸いだが、〈企業への放火〉と言えば記憶に新しいのが2019年夏の〈京アニ放火事件〉だ。こっちの件では中の人が大勢死んだし犯人自身も焼け死んだという。けれどもしかし、そいつは大勢殺して自分も死ぬ気だったのだろうか。
 
たぶん、違うと思うんだよね。おれはやっぱりこれにもたいして関心持たず、詳しいわけでもないんだけれども、小火(ボヤ)でも起こしてやる気で火をつけたのが爆発的に燃え上がり、大惨事となったんじゃないの? 知らないけど、きっとそうだろ。
 
その動機は怨恨だった。犯人は自分が書いてネットだかに出した小説を〈京都アニメーション〉という会社が盗んでアニメにしたと思い込んでいたのだが、しかし〈京アニ〉のアニメなんて全部似たり寄ったりだろう。〈小鳥遊〉と書いて〈タカナシ〉と読む少女が必ず出てきて阿蘇からラドンが飛び立ち、スターウォーズがうる星やつらして時を駆ける少女してしまい、話がわやくちゃになる。宇宙が宇宙が大変だ。
 
というような話の割に暗くて地味で、ダイナミズムや華々しさに欠けている。ヒロインの倍鬼宮地味子(そまずじみこ)が幼馴染の主人公男子を毎朝起こしに来てくれて、お弁当を作ってくれて、しかし言うのは、
「か、勘違いしないでよねっ。あたしはあんたのことなんか、なんとも思ってないんだからねっ」
なんてなことで、今のヲタクはそういうものしか見ないのでそういうもんだけ作っていた。
 
わけだろ。〈京アニ〉が作るアニメは、萌え美少女が萌え萌えとしてるだけで話はつまらん。それでよい。見る人間がおもしろいものを求めていない。普通の人間の眼で見れば、ただ気持ちが悪いだけ。
 
そうだろう。大体おれはね、アニメだって見てまあいいと思うのは、『逮捕しちゃうぞ』とか『めぞん一刻』とか、『ボトムズ』のフィアナといったお姉さん系であって萌え美少女に萌えたことなどただの一度も
 
やり直し。何が言いたいかと言えば、要するに企業への怨恨で放火するやつなんていうのは〈京アニ〉の件の犯人にように勘違いの逆恨みだったりして、火を使えば死人が出たり自分も死んだり火傷を負うかもしれないといったことに無頓着で、生かして捕まえたのを見ても気持ち悪いだけ。単独で行動し、他人とツルんだりはしない。
 
   *
 
 私は殺人犯を個人的に知っていますが、彼らはだいたいからして偏屈で陰気で、大なり小なり性格破綻者であります。
 犯罪を飯の種にしている常習犯罪者というものは、ふつうの人間に比べてむしろ陽気でノリのいい人種でありますから、「かっとして」とか「思いつめて」とかいう短絡的理由で人殺しをしてしまう彼らなどは、ただ薄気味悪いだけで、なんの連帯感も感じない。
 
画像:初等ヤクザの犯罪学教室表紙
 
というのは間違いなく〈京アニ〉の件の男にも当てはまる。
 
そしてアマチュアだ。グリ森事件の犯人達はプロであるゆえ捕まらなかった。放火はアマチュアのやることで、犯罪のプロがやることじゃない。おれにはこの放火の件は、一連の事件の中で素人臭く、他の件とは性格がまるで違う気がしてならない。
 
ということです。午後8時50分、グリコ本社に火をつけ大火(たいか)。しかしほんとに大火を狙ったものだろうか。
 
やっぱりボヤを起こしてやる気で火をつけたのが、思いがけずに大火事になったものと違うのか。そんなことさえ、誘拐と同一犯の仕業と断定されたためにロクに検討されてないのと違うか。恨みでやったことなのだから、人がいても構わなかった。掃除の人や警備員なんかでさえも〈グリコの人間〉とみなすがゆえに、焼け死んだところで平気。
 
そういうやつらということにされた。《誘拐と同一犯の仕業と断定された》というのは、そういう意味も含むんじゃないのか。としたら、簡単に決めつけ過ぎだ。おれはそう思うのだけどどんなもんか。
 
ウィキによれば、これに続けて、
 
   *
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之