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戸締り用心、火の用心。月に一度は大掃除。



〈八紘一宇〉という言葉は、本来意味のあやふやなバズワードであったという。【戸締り用心、火の用心。一日一善。お父さんお母さんを大切にしよう。月に一度は大掃除。世界は一家、人類皆兄弟】というようなことらしいが、長い。わけわからない。おれが子供の頃にテレビでこれを言うものがあり、週に一度ばかり見るたびおれの親父が、
 
「けっ、よくも言えたもんだ。A級戦犯が」
 
と毒づいていた。おれにはなんだかサッパリわからなかったので「イチニチイチゼンてなあに」と訊くと、
 
「まあ、一日に一回いいことをしようって意味だ」
 
と言う。それが八紘一宇の精神というものである。本来は、
 
【戸締り用心、火の用心。一日一善。お父さんお母さんを大切にしよう。月に一度は大掃除】
 
という、意味はわかるがなんやねんそれ、と言うしかないような言葉なのだが、石原莞爾という男になんでそうなるのか知れんが、
 
【地球の皇居がある経度を中心とする半球はすべて天皇陛下のもの。トルコの真ん中からこっちと、太平洋の全部だ】
 
という意味だと定義される。
 
画像:『ヤマト』エンドクレジット・企画構成西崎義展
 
これね。だから『さらば宇宙戦艦ヤマト』で、ラスボスのズォーダー大帝が、
 
   *
 
「どうだ、わかっただろう。宇宙の絶対的支配者はただひとり、この全能なる私なのだ。命あるものはその血の一滴まで俺のものだ。宇宙はすべてが我の意志のままにある。私が宇宙の法だ。宇宙の秩序だ。よって当然、地球もこの私のものだ」
 
アフェリエイト:さらば宇宙戦艦ヤマト
 
うわははは、わーはっはっは、と笑うと古代進が、
 
「違う! 断じて違う! 戸締り用心火の用心だ。一日一善、お父さんお母さんを大切にしよう、月に一度は大掃除だ。それが宇宙の真理であり宇宙の愛だ!」
 
と叫んで特攻する。小学4年のおれはこれ見てつい泣いてしまったが、やはりいま見直してみてこれはちょっとどういうもんかと考えざるを得ない。
 
西暦二千二百一年。ヤマトは永遠の旅に旅立っていった。ヤマトを愛して下さった皆さん、さようなら。もう二度と姿を現すことはありません。でも、きっと、永遠に生きているでしょう。あなたの胸に。心に。魂の中に……と言った舌の根の乾かぬうちに西崎義展は続編を作り始め、死ぬまで古代が八紘一宇の精神で宇宙から来る侵略者と戦う『ヤマト』を作り続けた。それはこないだ見せた、
 
画像:封印16-17ページ
画像:封印表紙
  
これに書いてある通りだ。西崎が二十ウン年かけて作った『復活編』は石原慎太郎原案と言うが、昭和の昔にベストセラー作家にして政治家だった辻政信という人物は、ベトナム戦争開戦時に、
 
「お尋ねします! 日本はアジアの平和を護るリーダーではなかったのですか。もし日本人が真にアジアの平和と人々の共存を願うなら……」
 
とかなんとか叫んでベトナムに行き、帰って来なかったという。叫んだ割にはベトナムのどこへ行って何をするという計画のなかった旅であったらしく、闇雲に入っていってスパイとして扱われ、銃殺されたらしいと言われる。
 
アフェリエイト:潜行三千里
 
西暦一千九百六十一年。おれが生まれる前の話だ。
 
戸締り用心、火の用心。一日一善。お父さんお母さんを大切にしよう。月に一度は大掃除――そんなこと言う政治家などを信じてついていってはいけない。うっかりすれば自分が先に地雷原を歩かされるかもしれない。【八紘一宇】が言う〈世界〉とは地球のこちら半球であり、〈人類〉とは黄色人種だけのこと。天皇が父で、日本人が兄。それ以外は弟という一家の戸締りと火の用心をし、裏の世界のことは忘れる。
 
裏半球は闇の世界だ。アングロサクソンという鬼畜に支配され、彼らが〈モロ〉と呼ぶ者どもが奴隷にされてる。だが、ほっとこう。どうせ陽が沈む世界だ。鬼は外、福は内。この〈表〉の世界のみを、白んぼから護るのだ。
 
セカイの絶対的支配者はただひとり、偉大な天皇陛下なのだ。命あるものはその血の一滴まで陛下のものだ。セカイはすべてが陛下の意志のままにある。陛下がセカイの法だ。セカイの秩序だ。よって当然、オーストラリアのエアーズロックも陛下のものだ。セカイの中心で愛を叫ぼう。助けてください、助けてください。危機が。時間が。早く。誰かが……というのが〈八紘一宇の精神〉だが、これを唱える人間を信じてついていくべきでない。「助けてください、助けてください」ということに自分がなるのが目に見えてるが、たぶん助けてはもらえない。
 
辻政信が帰って来れなかったように。〈彼ら〉は大抵エセ学者を従えていて、まことしやかなことを言う。
 
「今日は風が強いですね。これは桶屋が儲かるでしょう。風が吹くと火事の炎が燃え広がって、町がまるごと焼けてしまう。みんなで桶の水をかけねばならなくなって、それで桶屋が儲かるのです」
 
とか、
 
「ワタシは消防署の方から来ました。だから消防署の者です。あなたは桶を持っていますか。持ってない? では買わねばなりません」
 
とか言って何十万円もする桶を買わされることになる。
 
上坂すみれはまさか買うやつがいると思わず、原価百円の壺に《壱萬圓》の値を付け、台に並べて自分のファンに「いかがですか」とやった。やってはいけないことをやったが、買った人間がバカなもの買ったと思いつつ泣いてないなら人として許される範疇ではあるのかもしれない。上坂さんはそのお金で〈モシン・ナガン〉とか〈ドラグノフ〉とか、ボルトを外して撃てなくした無可動実銃というものを買って抱いて寝ているという。『緊急検証』という番組では【天使みたいな人】と呼ばれる。
 
画像:ザ・コクピット『天使の徹甲弾』よりモシン・ナガンについてのコマ
アフェリエイト:ザ・コクピット6
 
無可動実銃! そんなもん、「いかがですか」と言って売ってるやつがいるって話は知っていたけど、まさか本当に買うやつがいるとは! そこらへんの食べ物屋さんが店の前に並べて売ってるパック料理も、人が買っているところをおれは見たことないのだけれど、あれは少しは売れているのか。買う人間はお店の人には天使みたいな人であろうが、日に一個も売れないまんま捨てられてたりしないのだろうか。
 
買う人間は中に入って食べるのがヤだから外のパックを買うのであろう。それのどこが天使なのか。元はと言えば大阪市立大学とか、大阪教育大学だとかの、本当に専門家なのかも怪しげな学者がテレビで、
 
「食べ物屋の食べ物にはコロナが入っているおそれが。危険。食べたら死にます」
 
と言うからこういうことになってるのだろうが、店内にコロナがいるならその厨房で作られる料理が安全な道理はない。科学的にはそのはずだが、しかし大阪市立大学とか、大阪教育大学とかの、本当に専門家なのかも怪しげな学者がテレビで、
 
「お店の外で売ってる料理は大丈夫です」
 
と言うから食べても大丈夫ということになってる。
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之