端数報告３
という調子でもうまともな返事は来ない。おれは事件そのものよりも、テレビのニュースが言うことや、まわりにいる一部の者達の反応を「イカレてる」と思って当時に見ていたのだが、それもこれも、
画像：加藤譲
この顎髭が独断専行で記事を出すのがいけなかったんじゃねえのんか。この画に向かって上川隆也が、
「教えてください、ミスター・グリコ。ぼくはどうすれば……」
と言うと顔に色が付き、ヒゲ男が顎のヒゲを動かしながら、
「独断専行だよ。独断専行こそが、邪悪な暴力に立ち向かえる最後の武器なのだ。『子供には字は読めない』とか、『勝手に開けて食べられたらえらいことだ』といった意見をタップリ混ぜてまわりには断らずに紙（し）に載せるんだ。わかるな、上川……」
と応える。今に再現ドラマを見直し、これってそういうものなんじゃないかとおれは思ってしまってるんだが、しかしもちろん、これは、
※個人の感想です
というのをお断りしたうえで、本来〈グリ森事件〉というのはすべてが、
「やれやれ、人騒がせな話は、いいかげんにしてもらいたいもんだ」
と言って済ませていいようなものを〈ミスター・グリコ〉と呼ばれたヒゲが独断記事でおおごとにした。こいつひとりの憶測という不確かな情報だけで社会が動き、政府までも引きずられ、魔の彗星の襲来によって地球そのものが吸い込まれ、ひしゃげ、粉々に砕かれるものと錯覚されるようにまでなった。
のではないかとおれには思える。再現ドラマを見た感想ではね。おれには上川隆也が演じる加藤譲という男が、
＊
「お尋ねします！ 地球は宇宙の平和を護るリーダーではなかったのですか。もし地球人が真に宇宙の平和と人々の共存を願うなら……」
アフェリエイト：池上彰『コロナウイルスの終息は撲滅でなく共存』
じゃなかった、
アフェリエイト：さらば宇宙戦艦ヤマト
なんて叫んで勝手に〈ヤマト〉を動かして宇宙に出て行く古代進みたいに思えてどうにもしょうがないのだけれど、しかし通信の発信源がわかってないのに船出してあれはどうして宇宙の危機を止めに行けると思っているのか。
＊
島「発信源はわかりませんか」
真田「ここのコンピューターでは出力が足りなくて」
アフェリエイト：さらば宇宙戦艦ヤマト
そこが不思議だ。再現ドラマの上川隆也は大阪をグルグル意味なく駆け回っているようにしか見えない。自分では犯人めがけてまっすぐに突き進んでいる気でいるらしいのだけど。
今の日本で同じことがまた起きている。グリ森事件を遙かにしのぐスケールで、「我こそミスター・コロナ」と叫ぶ人間達がこぞって、てんでに独断専行で事を起こし、自分はまっすぐ進んでいるつもりで社会を無意味に混乱させてる。日本だけでなく、全世界で。
おれにはそのようにしか見えない。「危機が！時間が！早く！誰かが！」。そう訴える専門家達はしかし言うことがみんな違い、しかも言うたびに言うことが帝銀事件の平沢貞通の供述のようにコロコロ変わるがそれを気にせず、「だとするとその災害の大きさは」「だとするとその災害の大きさは」とだけ質問を繰り返す。学者の応えはそこで必ず、
「わかりません。しかし、〈スペイン風邪〉や〈黒死病〉を遙かにしのぐことだけは確かです……」
なのだから、それはすなわちこの地球が割れてなくなってしまうということ。
東経139度線でふたつにパカッと割れてしまうということ。
日本人にとってはこっちの半球が〈表〉であり、天皇陛下のものなのだから、〈おっさん〉という下等生物のゴキブリ並みの脳ではそうなる。どうしようもねえ……。
なんてなことをニューギニアのジャヤ山はいま考えてないだろうか、と言って今回の最初に戻るが、しかしまたまた話が長くなっているな。本当は前回の最後に見せた署名記事の話をしたかったんだけど、それはまた今度にします。それではまた。