小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

端数報告3

INDEX|11ページ/65ページ|

次のページ前のページ
 

「あれが第2波だったのかどうかについては、専門家の間でも意見が分かれています」
 
とテレビで10月に言うのをおれは聞いたという話をここで再三してきた。どうなってんだろうな。結局、多数の意見が勝って第2波だということになったのか。
 
感染の拡大によってこれこれこういうことが引き起こされて100人が死んだけど、9月になってこうなったので止んだ、というのが科学的に解明でもされたのか。おれの考えはあの増加について、熱帯夜で暑いからって部屋のクーラーを強くして、
 
画像:爆裂弾道交差点最終ページよりニューギニア原住民のコマ
アフェリエイト:わが青春のアルカディア
 
こんな格好で寝た人間が風邪を発症させただけ。コロナはそもそもただの普通の風邪に過ぎないのが素人目にも明白だ。死者数が世界でタッタの百万人。そのくらいは毎年普通に肺炎で死んでる数と大差ないんじゃないのかというものだが、専門家の中にそう言う人間がひとりもいないようなのはおれが間違ってるのだろうか。
 
かもな。おれは例年の平均死者数を知ってるわけじゃないからなんとも言えないんだが、しかし今年の日本は暖冬もいいところですね。東京はどうやら雪が降りそうにないけど、去年の夏みたいに2月半ばを過ぎてから寒くなったりしねえだろうな。
 
帝銀事件はちょうど今頃、本来最も寒い頃合いの1月26日、雪が降った日に起きたが、今年は食べ物屋さんがみんな、店の前にパックを並べて「いかがですか」と呼んで売ってる。この時期にもだ。暖冬なのが不幸中の幸いだろうが、冷たい風が吹く日にもやっててお気の毒な話である。しかし次に見せるこの画は、
 
画像:森永社員の街頭販売
 
今年のそれを撮ったのでない。1985年、グリ森事件の第3波だか第4波だか、5波目か6波目か第7波目にして〈禍〉がピークに達した状況、森永社員が会社の〈キキ〉に〈タチアガッテ〉お菓子を直に街頭販売してるところを、
 
画像:NHK未解決事件の番組表
 
この番組の録画から切り取ったものだ。これは今年のコロナで見るのとよく似ているとおれは思う。
 
このときどうしてこんなことになったと言えば、事件の犯人グループが森永の菓子に毒を入れてコンビニなどの売り場の棚に置いたからだが、しかし犯人は製品のセロハン包装を切ってそれがひとめでわかるようにしており、
《どくいり きけん たべたら 死ぬで かい人21面相》
と書いた紙を貼りつけていた。見つけた者が食べることなどないよう気を配っていたのだ。
 
だが番組はそのことを言わず、見てもわからないようなかたちで店頭の菓子に紛れ込ませたように再現ドラマを構成している。この当時に生まれていない上坂すみれさんなんかがこの番組だけ見たら、犯人達は本気で無差別毒殺を図っていたと思ってしまうかもしれない。
 
上坂すみれさんの好きな、
 
画像:中沢健 
 
この人なんかもそう思っているかもしれない。とにかく、
 
画像:子どもさんこんな読めませんわな
 
いや、読めるだろう。おこづかいをもらって遣える年齢なら間違いなく読めます。
 
画像:もしくは勝手に開けて食べられたらえらいことやしね
 
何言ってんだこのおっさんは。しかしこのおっさんは見てひとめでわかるようにただの〈おっさん〉という下等生物であってものを考える葦(あし)ではなく、彼の言葉は、
 
画像:加藤譲
 
この顎髭沖田艦長の受け売りらしい。元はと言えば、新聞各紙に犯人が送った手紙を読売新聞のこいつが読んで、実際に毒入り菓子が発見されたとの報告に、上川がこれを演じる再現ドラマは、
 
   *
 
記者A「毒物が青酸ソーダやて断定された」
記者B「今度こそほんまもんか」
加藤譲「ヤバ過ぎるで。ホンマにやりよった」
 
   *
 
と言って、脇役の記者C、実写映画版『ヤマト』の第三艦橋に乗ってて泣きながら死ぬクルーを演ってた俳優が、
「上はこれをどう扱うつもりですかね」
と言うのを、
 
   *
 
加藤譲「考えるまでもないやろう。やつら本気で国民全員をターゲットにしてきよったんやで。絶対に書くべきや。ふざけやがって……」
 
   *
 
と応えて『おいおい、ちょっとまずいんじゃないのか』という眼で仲間が見守る中で記事を書き、
 
画像:讀賣夕刊(森永製品に青酸入れる)
 
こうして読売の夕刊に載る。どうもこいつの頭の中だけにあったなんの根拠もない憶測がお菓子の中の青酸のように多分に混じった記事なのでないかという気がしてならない。
 
おれにはね。この再現ドラマを見るに、この顎髭が上や警察の了解を取ることなしに記事を出すから他の新聞やテレビのニュースも追随せずを得なくなり、
 
   *
 
(ナレーション)青酸入りという報道に衝撃が走った。森永製菓の商品は店頭から次々に撤去され、返品された商品は万一の事態を考え、廃棄処分にされた。
「(当時の森永製菓・物流部長が)精魂込めて作ったのがこんなふうにねえ、もう、廃棄されるなんてことは見ていられないですよね(おれ註:あんたは物流担当であって製造した立場じゃなかろう)」
 
画像:森永の菓子廃棄処分
 
   *
 
と言って回収されたお菓子が潰される画が映し出され、
 
   *
 
(ナレーション)森永製菓は九割の減産に追い込まれ、大量のパート従業員が解雇された。(略)犯行はとどまることなく、森永製菓の被害総額は80億円を超えた。事態を打開するため、森永製菓は袋詰めの千円パックを作り、社員みずからが街頭で直接売り始めた。
 
   *
 
と言ってさっき見せた、
 
画像:森永社員の街頭販売
 
この画ということになる。おれは当時にお菓子が『さらば』の白色彗星に星が砕かれる光景のように潰されるのを、
 
「もったいねえなあ。捨てるんならおれにくれよ」
 
と思って見ていたが、しかしまわりには、
 
「お前バカかあ――っ!! 森永の菓子には毒が入ってるのがわからないのか!!!」
 
とわめくのが結構多くて、おれが、
 
「いや、犯人は明らかにほんとに人を殺す気ないだろ」
 
と言うと、
 
「バカ、バカ、それがバカだって言うんだ。犯人は本気で無差別大量毒殺を始めたんだよ! ニュースで作家とか学者とか、言ってるのを知らないのか。犯人はなあ、次はキッチリ封を閉じて、紙を貼らずに毒入り菓子を店に置いてたに違いないんだよ。何千個もな! あの捨てられた菓子の中には、百に一個や千に一個の割合で致死量の毒が入ってるのは絶対間違いないことなんだ! それを知らずに食ったら死ぬ。死ぬんだ。これはこの世の終わりだ! この世の終わりが来てしまったということなんだあっ!! うわあーっっ!!! わあああ――っっっ!!!!!!」
 
とわめき散らすのが結構多くて、おれが、
 
「いや、だとしたら何が目的でそんなことを」
 
と聞いても、
 
「終わりだあ――っ! 地球そのものが、宇宙から消滅してしまうんだあ――っ!! いや、宇宙そのものが、全宇宙が消えてなくなる!!!!」
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之