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端数報告2

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こうだ。〈山本三樹夫〉とあるのは〈山口伊豆夫〉の名を変えたもの。なんだか話がセーチョーとドーマコが信じさせたがっているところと違って怪しくなってきませんか。
 
それでも
〈タドンを取りに来たのは事実らしい。〉
とある。うん、それは事実らしいな。けれどもそれが4時というのは佐伯省氏も書いてる通り疑わしいと言わねばなるまい。
 
ドーマコの本は全部がドーマコの創作なのが明らかだが、セーチョーの『小説』でも〈平沢がタドンを取りに来たのは4時〉というのは山口の妻が、
 
「(略)ではないかと思います。まだ明るいころでした。」
 
と言っているだけが根拠とわかる。だが1月の末ならば日が暮れるのは5時過ぎだ。それが4時でもアリバイが成り立つかどうかギリギリというところだろうし、4時半だったらもうまったくアリバイにならない。
 
セーチョーが、
 
〈当然アリバイが成立する。〉
 
と書いているのは山田弁護人が〈家族の話を総合して〉主張することを無批判に受け入れてるに過ぎないのだ。実は家族も細かい時刻を憶えてるわけないのだからアリバイになっていないじゃないか。5時が5時半ならもうアリバイは成立しない。日没時間も総合して考えたらむしろ平沢の帰宅時刻は6時頃じゃないのかとさえおれには思えるわけで、話にも何もなっていない。
 
ドーマコの本では家族全員が、平沢の帰宅時刻をハッキリ5時と憶えていたように書かれているがバカバカしい。オーケンはこれをなんにも疑わずに読んだんだろうけれどもね。この中で時刻を憶えている者がもしいるとしたら可能性がいちばんあるのはエリーとトランプしてるところに平沢に帰って来られた三女のヨーコ(漢字を表記させられない)ではないかとおれには思えるのだが、セーチョーの『小説』では名前にルビも振られてないうえ、『黒い霧』ではエリーとトランプしていたのがヨーコではなく、山口の妻でそのときそこにいなかった次女ということになってしまっている。
 
セーチョーには次女のアキと三女のヨーコの区別すらちゃんとできていないのだ。佐伯省氏と違って直に話を聞いたわけでもないから。三女の名の読み形がわからなければわからないまま。事件からまだ11年で関係者が皆生きているのに新聞社の資料室にあるものだけを読んで本を書いている。そこから自分の考えに都合のいいものだけ抜き出してる。
 
だから平沢の次女と三女を混同して気づかない。これって推理小説ではよく使われるトリックじゃないの? よくもアリバイがどうとかなんて偉そうな口が利けるもんよな。
 
ヨーコはこれをほんとのところ、どう証言しているのだ? わからない。父親を父親とは思っておらず無実を信じてなかったのではないかとさえこれだけ見るとしてくるので、おれの『粧説』はここから話をふくらまして書いていく予定だ。
 
おれの『粧説』は〈小説〉でなく〈粧説〉なのでそれでいいという考えでいきます。〈粧説〉とは何かというのはバーテン……じゃなくてこちらで。
 
粧説帝国銀行事件
https://syosetu.org/novel/234452/
 
さて、セーチョーはエリーの帰国を、
 
〈どこか同じような狙いが感じられるのである。〉
 
と書く。セーチョーにはそう感じられるのだろう。今この日本で、学者という学者さんがテレビに出ては、
 
「『ホット・ゾーン』の作者は《ウイルスは戦略を持ち、〈波〉を起こす機会を待つ》と書いています。コロナにはどこかそれと同じような狙いが感じられるのです」
 
アフェリエイト:ホット・ゾーン
 
とか言ってるように。狙わねえだろ。確かに昔読んだあれに、そんなことが書いてあったような憶えもまあおれにもあるけど、《ウイルスはほんとにものを考えるわけではない》とあの作者もちゃんと断っていなかったか? おれは一度読んだきりでよく憶えてないんだけどさあ。
 
でもどいつも今そう言っている。『アルキメデスの大戦』の歩目死男みたいな口調で「観点が甘い!」と叫び、ペラペラまくしたてた後に、
 
「最悪の場合、人類絶滅」
 
と言って、オー人事オー人事な曲が流れて池上彰が、
 
「そんなことが起こったら、テングー以来の大惨事ですね」
 
とニコニコ笑いながら頷いている。こいつの場合、ニコニコとやるところがうまいんだよな。〈テングー〉とはなんなのか、聞くとバカにされそうだから誰も聞かないところも含めて。
 
エリーが証言しなかったのも、たんにそんな時刻などまったく憶えていなかったから。アメリカに帰ったのもそれが命令と言うより年季が明けたから。そしてどう答えても人に嘘だと言われるのがわかるので関わり合いたくなかっただけではないか、とおれには感じられるのです。
 
帝銀事件についてGHQの陰謀などない。陰謀を企んでたのはセーチョーだ。己のイカレた妄想を世間に広めようというだけのかなりショボい陰謀であり、本当の陰謀とは言えないが、でも陰謀には違いないと、これを根拠におれは言うことができるわけです。

作品名:端数報告2 作家名:島田信之