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端数報告2

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「またあの讀賣のドーミサ(遠藤美佐雄の真ん中を取って藤美佐、つまりドーミサである)の野郎が、自分は刑事だと偽るような取材のやり方してやがんのか。なんとかやめさせられないもんかな」
 
って、だったら「この埋め合わせは他でするよ」とか言うなよ。考えてものを言え。お前も悪いんだお前も。
 
 
というのが真相ではないのかとおれは思うがどうでしょう皆さん。
 
 
毒の実験をしたいなら、もっとうまいやり方が他にいくらでもあるはずです。前にも書いたが当時は〈命売ります〉なんて看板持って立ってる男がいくらでもいた。その彼らに声を掛け、
 
「回虫を殺す薬の試験なんだ。寿命縮めることになるかもしれんが、やるか」
 
とでも言って何千圓か見せれば、かなりの率で「やる」と応えるのじゃないか。次の日からそいつが同じ場所に立たなくなったとしても気にする者はない。
 
対して帝銀事件は世を震撼させる。4人か5人でやって全員の頸を斬り、カネを全部持っていっても、
 
「これは一体何があったということなんだ。いくらカネが目当てと言っても――」
 
という話になってしまう。
 
そうに決まってるじゃないか。スパイ組織が本当にそんな作戦をするでしょうか。ましてひとりでやらすでしょうか。よく考えてみてください。
 
この犯行に毒の知識など必要ない――それがおれの考えです。毒のビンにピペットを突っ込み、上の油だけを採る。そんなことを本当にやる度胸さえあればいい。青酸カリなら戦時中、自決用に配られることもあったと言いますから、この現代に《宇宙飛行士が10秒だけ》の話がよく知られるように《上の油を採って飲めば》が当時に人が交わす言葉になっていたのは充分に有り得るでしょう。まさか本当に、やったやつもいないだろうが。
 
だが平沢は、どうしてもカネを必要とした。だからやらねばならなかった。たぶん、前年の〈荏原支店〉では弱い毒でやっている。そのときにはやってのけた。上の油を採って飲むというそのことだけは。
 
それを今度は本当に、青酸カリでやるだけだ――。
 
そう、そんなことを本当にやったやつは他にいない。いるわけがない。だからやれるのは平沢だけ。
 
二度目だから成功したのだ。ただし、毒の知識がないから、量が多過ぎてしまったが。
 
ために殺す気なかったのに12人が死んでしまったが。
 
 
というのが事件の真相ではないかとおれは思うがどうでしょう皆さん。
 
 
 
で、ええとその次、
 
   *
 
 GHQが捜査を中止させたのは、米軍が731部隊の持っていたデータに価値を感じ、情報流出を嫌ったからだという説がある。米軍は、後に朝鮮戦争やベトナム戦争で生物兵器を使用している。そこに、巨大な闇の存在を感じずにはいられない。
 
   *
 
か。おれは前に「なんの根拠があって」と書いたが、セーチョーの『黒い霧』には《北朝鮮と中国側の発表によると》うんぬんとあったんだね、朝鮮戦争では。他にもこれを信じる者が、昭和の昔はたくさんいたのか。
 
なるほど、やはりベトナムでも、北ベトナムと旧ソ連はそんな発表してるに違いないだろうけど、それを信じてどうするという。
 
それも平成、そして令和の今になって。
 
そんなもんは全部プロパガンダだと言ってしまっていいでしょう。確かに旧日本軍は、〈風船爆弾〉にペストを詰めてアメリカに送るようなことをやった。のかな。やったんだっけ。まあやったかもしれないし、テロ組織は炭疽菌テロなんてことをアメリカなどに仕掛けたりする。
 
オウムは地下鉄にサリンを撒いた。しかしけれどもこれらの例は、国や組織が弱小なためにそうするしかなかったわけだ、彼らとしては。
 
生物化学兵器は〈貧者の核爆弾〉である。アメリカのように強く大きな国にとって、リスクを冒してまで使いたいようなものでない。大統領には自分の政治生命が、自分の生命以上なくらいに大事なものなんだから、なんでそんなもん使わせるか。
 
ちょっと考えてみたならばそういう結論になりそうなもんだ。でも研究はしてるでしょうね。北朝鮮のようなローグや、テロリストに使われたときどう対処するかの研究はしてるでしょう。前にも書いたが〈七三一〉の実験データはそのための貴重な資料になるかもしれない。
 
自衛隊もまた当然、そんな研究はしてるだろうが、「憲法九条遵守」を叫ぶ人間はそれもダメだとわめきたてる。だから平沢は冤罪で、〈救う会〉にも入るわけです。全員が完全な狂人だと言うしかない。
 
少数報告 [電子書籍版]
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似た話はこの作でもしているのでよろしければ。シリーズ全話の無料試し読みはこちら。
 
コート・イン・ジ・アクト試し読み版 [電子書籍版]
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というわけで話はだいたい終わったのかな。ただしこの、
 
画像:未解決事件の戦後史18-19ページ
 
ってのを抜かしてたけど、これについてはまあいいでしょう。最初の面通しで11人中6人が「違う」と言ったのは、若人アキラが郷ひろみに見えなかったからでなく、平沢が大画家と聞いて彼らの多くが怯んでいた。が、その後に変わったのは若人アキラが郷ひろみに見えてきたというわけではなくて、平沢が4件の悪質極まる詐欺を働いていたと知ったからと見るべきだから。
 
銀行に勤める人間にしたら、「は〜い」と言って他人のお金を持ってくやつや、盗んだ通帳を細工して詐欺をやらかすような野郎はゴキブリ以外のなんでもない。平沢がそうだと知って実はもともと最初から「似てる」と思っていたものを「似てる」と言い出したに過ぎない。
 
が、オーケンはそれを知らない。「は〜い」に続く3件を知らないためにドーマコの嘘に騙された。
 
というだけに過ぎないのだ。そして「は〜い」の一件にしても、ドーマコは知っていたのに違いないが、本当に、
 
   *
 
遠藤「そう、そう、そう。ありました。三菱銀行丸ビル支店事件ね。銀行の他のお客の持ってた札を、地ベタに落ちてたんで、それを拾って、「何番さ〜ん」って呼ばれた時に「は〜い」って言って、人の通帳とハンコと金一万円をもらっちゃって」
 
アフェリエイト:のほほん人間革命
 
なのかは相当に怪しい。こないだ『疑惑α』から引用した文を今度はスキャンで見せよう。
 
画像:疑惑α231-232ページ
 
画像:疑惑α表紙
 
こうだ。同じことをデイヴィッド・ピースが『占領都市』に違う言葉で書いているのは前に見せましたね。
 
画像:占領都市表紙
 
ふたりの人物が同じことを違う書き方で書いている。ってことは、つまり、話そのものは事実なわけだ。ならばそれをどう見るか。
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之