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瞑目なんかさせてやるかよ


 
前回、表紙を見せられませんでしたが、
 
画像:占領都市&〈このミス〉30周年冊子表紙
 
この本の話。横に置いた〈このミス〉30周年の冊子によるとこの通り、
 
画像:冊子26ページ
 
2013年度版の海外編2位だとか。で、平沢の無実の叫びを並べた章がありまして、ちょっと抜き出してみるに、
 
画像:占領都市322-323ページ
 
こんなことが書いてある。今回はこれについて語っていきたいと思います。
 
まず全体を読んでください。これが「は〜い」の一件と、それに続く連続詐欺未遂をなんとか《詐欺でもなんでもない、ほんの軽い過ちの事件》に見せようとしてるものだとわかりますね。で、〈1〉と〈2〉は飛ばして、〈3〉のオレンジで囲ったところ。
 
   *
 
 むろんひどく罪悪感を覚えた。そこでふと、良い考えを思いついたように思った。タクシーを拾って上野公園へ向かい、西郷像の真ん前で降りた。すぐに地下鉄の駅への入り口に向かうと、いつものように二十人以上の浮浪児がたむろしていた。わたしはそこで経を唱えながら子供らに二百円ずつ配り、とうとう一万円を処分した。それで終わりになることを祈りつつ、自分の行為については考えまいとした。
 
   *
 
だと? よくもまあ。しかしどうやら平沢が「は〜い」でガメた一万円を「上野の浮浪児に全部配った」と供述してるのは事実のようだ。同じ話は、
 
画像:疑惑α表紙
 
この本にも書かれている。著者の佐伯省氏は《信じ難い》と書いて疑っているようだが。 
 
まあ普通は信じないよな。けれどもこのデイヴィッド・ピースさんとやらは、信じちゃっているんだろうか。読んで〈このミス〉に推した人らは、みんな信じて、
 
「やっぱり。だから道徳的に見て、百パーセント素晴らしい人格の持ち主だったのが確かということじゃないですか。遠藤誠先生も、どうしてそんな大事なことをオーケンにちゃんと言わないんだ。これを知ったら『のほほん人間革命』の読者がみんな、〈救う会〉に入ったものに違いないのに! ああ! オレは今からでも〈救う会〉に入ろう!」
 
とか言っちゃったりしてんだろうか。だろうな。遠藤の、
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏表紙
 
この本には、
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏128−129ページ
 
こんな話が出てきたりして、この嘘つきが珍しくほんとのことを書いているのかもしれないけれど、きっと菅原富美子さんと斎藤妙さんとやらはこの《浮浪児に配った》の話も信じていたのでしょう。
 
が、普通のマトモな人なら、
 
「罪悪感を覚えたのなら返しに行けよ! 『ついうっかり受け取ったけど後で間違いに気づきました』と言えば相手は『本当か? 故意にやったが金額が思った以上にデカかったから怖くなったんじゃないのか』と思うかもだが自分からすぐ返しに来たなら不問にするだろう。浮浪児にやったからってなんで帳消しになると言うんだ!」
 
と思いますよねえ。さて、実はおれ、この話をかねてからちょっとばかり疑っていた。《いくぶんは偶然や成り行きからではあるが、》などとここでも言ってるけれど、本当か? 実はもともとカッパギをやるつもりでその銀行にいて、まんまと成功したんじゃないのか、と。
 
出来過ぎた話のように感じていたからだ。で、案の定、『疑惑α』に、
 
   *
 
 最初の三菱銀行丸の内支店を舞台にした事件は、長谷川慶次郎名義の預金通帳と、現金一万円を詐取したものだが、平沢の供述と事実ははっきり違っている。
 平沢は、現金引き換えの番号札が「落ちていた」のを拾って呼び出しに応じ、現金と通帳を詐取したと言っているが、長谷川に頼まれて預金の引き出しに来た女事務員には、番号札を落とした事実はなく、平沢の供述と完全に合わない。
 平沢は、丸の内支店に来たのは、絵の代金一万円の小切手を、現金化するためと言っているが、誰から貰った小切手か忘れたと言ってはっきりさせていない。この時、一万円を詐取したのなら、当時の金としてずいぶん巧い事をしたわけであるから、誰の小切手を持って行った時のことか、強く印象に残っているはずなのに、忘れたというのは納得出来ない。
 
   *
 
こう書いてあるところがあった。ここで『占領都市』の、〈2〉のピンクで囲ったところ、
 
   *
 
 一九四七年八月のある日、もう名前は覚えていないが、ある人物から千円の小切手を受け取った。その日、手持ちの金がほとんどなかったので、三菱銀行の支店へ行って小切手を現金に換えようと思った。しかし、銀行へ行く途中で印鑑を忘れたことに気づいた。そこで最初の過ちを犯した。家へ取りに戻らず、はんこ屋で振出人の名字の印鑑を買ったのだ。それから銀行へ行った。
 
   *
 
とあるのをよく読み直してほしい。小切手の主を《もう名前は覚えていないが、》とか、《家へ取りに戻らず、はんこ屋で振出人の名字の印鑑を買ったのだ。》とか、『疑惑α』と確かに同じことを言ってやがるとわかるだろう。金額は一万のはずが《千円》となり、11月の出来事なのになぜか《八月》となっているが。
 
あまりにも疑わしい。
 
《いくぶんは偶然や成り行きからではあるが、》なんていうのは嘘だろう。その小切手が誰のものかわからないのは、平沢がはんこを《家へ取りに戻らず、はんこ屋で振出人の名字の印鑑を買った》からということになり、だから銀行でもわからない、そこで平沢が本当に小切手を現金化したかどうかもわからない、その金額が千円なのか一万円なのかもわからないということだろうが、そんな都合のいい話があるか。
 
そんな小切手はなかったのだ。そう考えるのが妥当だろう。「は〜い」の一件は《軽い詐欺事件みたいの》なんかで全然なかった。狙いすました巧妙きわまる悪質な詐欺の疑いが濃厚と言えよう。それで今なら百万円にもなるカネをまんまとさらい盗ったのだ。
 
そう考えるのが妥当だろう。でもって〈4〉の紫のところ。
 
   *
 
 しかし、一週間後、コートのポケットを探っていて、例の一万円と一緒に受け取った預金通帳を見つけた。わたしに何が取り憑いたのか、どうしてそんなことを考えたのかはわからないが、この口座の金を、わたしも所属するテンペラ画家協会のために使わなければならないと思った。わたしはやむを得ない事情で協会から何度も金を借りていた。ありていに言えば、協会の金を横領していて、自分の犯罪を隠したいと考えたのだ。そこで、長谷川名義のその口座から金を引き出す方法を考え始めた。
 
   *
 
と……ここまでくるともう、いや、横領で遣ったカネを株や競馬で返そうとしたり、女子供を誘拐して身代金で返そうとしてその人質を殺したりした人間は、みんな似たようなこと言って
『ワタシは悪い人間ではありません。ワタシに悪魔が取り憑いて勝手にやったことなのです。だからワタシは無罪なのです』
で済まそうとするのかもだが、それで済んでしまったらこの世は横領天国じゃないか。
 
平沢はカネに困っていたが、元はと言えば《アッ、スラれた》の鉛筆会社社長・佐藤健雄の話で、
 
   *
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之