短編集87(過去作品)
まったく同じ性格の人が存在しないとも限らない。性格が持って生まれたものだとすれば、偶然というよりも。神によって割り当てられたともいえる。しかもそこに、法則性は感じられない。まさしく気まぐれだ。
石ころのような存在というのは、今までにも感じたことがあるような気がする。それがいつだったのか覚えていないが、記憶の奥にあるもので、小さい頃だったようには思えない。
――今よりも年を取っていたように思うのは錯覚だろうか――
前世という言葉を今までにも何度か考えたことがあった。橋爪は都会で育った分、たくさんの本を読んだという自負がある。特にSF関係の本や、科学に関しての本をよく読んだものだ。
どちらもある意味で両極端な発想だが、突き詰めればどこかで交わりそうな気がする。まったく正反対のところで平行線を描いているように思っていたが、接点はどこかにある。
前世という発想を夢で見たのだが、すすきの穂が一面に広がった高原のようなところで、遠くの方に山が見える。田舎の光景など知っているわけではないのに、なぜか想像している光景はいつも同じなのだ。
――きっと、一番一人で置いておかれて嫌な場所を想像しているのだろう――
想像し始めると橋爪の発想はとどまるとことを知らない。それだけに、事業を起こすことができたのではないかと思うくらいだった。
――三木にその話をするとどんな顔をされるだろう――
想像したこともなかったが、何かを考えている時に橋爪を見る目は、
「あなたのことは何でも分かりますよ」
と言わんばかりで、普段は心強いのだが、時々無性に背筋が寒くなることがある。
三木にとっても同じことが言えるようだ。
「いつも考えていることを見透かされているようで怖い時がありますよ」
微笑ながら言われるが、
「どうしてだい?」
「何でも分かっていそうな顔になってますからね。そんな時、お釈迦様の手の平で遊ばれているような気になるんですよ」
孫悟空の話を持ち出してくるところが三木らしい。
実は三木はかすみから前もっていろいろ聞いていた。
かすみが橋爪と瓜二つの性格で、まるで元々同じ人間だったのではないかと思えるほどに見えているのは、三木も同じだった。しかも三木はかすみととても気が合う。まるで前世では夫婦だったのではないかと思うほどだ。
「あの人があなたに相談してきた時は、大体気持ちは固まっているんじゃないかしら」
と、かすみが話していた。目からウロコが落ちるとはこのことだ。
三木は橋爪のことなら何でも分かっているように思っていたが、自分に対してのことは分かっているようで案外分かっていない。全幅の信頼だと思えば思うほど、どこまで自分が引っ張ればいいのか分からない時がある。特に相談を受けた時などがそうで、何とか無難に答えようと思う。元々の堅実な性格も伴うので、確実なことにしか返事を出せなかった。
――そうか、だから自分が考えを言って、その後すぐに実行されるんだ――
実に初歩的なことを今さらながら思い知ったことは、顔が赤くなるほど恥ずかしいものだ。
三木は橋爪に答えた内容は、橋爪を喜ばせた。
「やっぱり君に相談してよかったよ」
初めて三木が橋爪の考えに触れた気がした。今までは何となく思い描いたことが同じだっただけで、触れるというところまでは行っていない。
橋爪は燻っていた気持ちをハッキリさせる時がやってきたことを感じた。しかもそれは自分だけではなく、三木にも言えることだった。仕事以外でも二人は同じ気持ちでいる。
――お互いに幸せになるのが一番なんだ――
三木は自分の覚悟も決まっていた。橋爪に話したことは自分にも言い聞かせることだからである。
二人は、その日覚悟を決めてスナック「しらさぎ」に向った。お互いに自分の気持ちに整理をつけるためだ。この日、三木は考えていた。
――今日の私は自分も表舞台、一世一代の晴れ舞台なのだ――
と……。
そこにはもう、前田利家も土方歳三もいなかった。
( 完 )
作品名:短編集87(過去作品) 作家名:森本晃次