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百代目閻魔は女装する美少女?【第十章】

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「生徒会長?そんな風情は感じられない。それに閻魔大王後継者候補見習いだと?変なヤツがいるものだな。でもルックスはお前たちよりずっといいように見えるぞ。あっ、これは男目線だからな。おいしそうだな。ジュル。」
 倉井は自分の本性の赴くままのようだ。すっかり目を細めて都を見つめている。
((倉井はん、間違うてはいけまへん。その子はあんたはんの嫌いな男子どす。))
「な、なんだと!それは本当か。」
 倉井は血相を変えて、絵里華の胸倉をつかみかかった。
((ゴホッ、ゴホッ、手を放してくれまへんか。苦しうおます。))
 苦しいのは本体だが、語るのはあくまでアルテミス。
 絵里華はやっとのことで、倉井の手を振りほどいた。
「おい、紅葉院。あいつを俺にしょ、しょうかィ・・・。」
((えっ。今何と言いはりました?))
「しょうかい・・・」
 強気な倉井が口ごもる。
((もう一度はっきりと話してくれまへんか。))
「ええい。じれったい。紹介してくれってんだよ。紹介、紹介、紹介。何度でも言うぜ。」
((いきなりどうしたんどす?))
「鈍い女だな。俺はアイツに惚れてしまったんだよ。」
「「「「ええええええええええええ~!!!!!!!!!!!!!」」」」
 四人が一斉に両手をほほに当てて絶叫。目は垂直。
「あいつは俺の仲間だ。外見は女、それもとびっきりの美少女。これぞ、自分が求めていた人。惚れた。」
「「「「ほ、ほ、ほ、ホレたああああああ~!!!!!!!!」」」」
 頬に手のひらを当てて、眼はベクトルマークを継続する四人。
 倉井はビューと音を立てて、疾風のごとく、オレへダッシュ。
「俺とつきあってくれ!」
「・・・。」
 オレは無反応。
「おい、なんとか言ってくれ。」
「・・・。」
「ダメなのか?」
「・・・。」
「ダメだから黙ってるのか?」
「・・・。」
「そうなのか?」
「・・・。」
 倉井は肩を落として、大きく息を吐いた。
((諦めはったんどすな。))
 絵里華は心なしか、笑みを浮かべたように見えた。他の3人も同様のようだ。
「ならばこうしてくれる!」
 倉井は背筋を伸ばして、反り返るようなポーズを取ったかと思うと、顔を前に突き出してきた。
『チュパー!チュパー!チュパー!』
 倉井はいきなりオレに喰らいついた、いや濃厚キスの三連発!
「「「「ぎゃあああああ!!!!!」」」」
 四人は再び絶叫。さきほどよりもはるかに高音がプールの水を波立てた。
 倉井がオレに飛びついたのはプールサイド。オレは目を閉じたまま、からだはクラゲのようにあてどなくふらふらしていたので、いつの間にか、そのような場所に移動していたのだ。
『ザバーン!』
 長年連れ添った奥さんに離婚宣告をされた中年サラリーマンが崖から飛び降りるように、オレはひとりプールに転落した。ひとりで落ちたのは、倉井がすでにこの世界から消滅してしたからである。オレはブクブクと泡を立てながら力なく水底に沈んでいく。
((都はん!))
 いちばん近くにいた絵里華がまっさきにプールに飛び込んだ。絵里華は幼い頃から水泳も習っていたので、泳ぎは達者である。すぐにオレに到達し、首のあたりを掴んで、水面に引きあげた。
((都はん、頑張って。しっかりしいや。))
 絵里華は喋ることはできないが、心の中で唱えては、倒れているオレを元気づけていた。
 溺れた人間はひどく重く感じるものであるが、絵里華は見た目以上にパワーがあり、ズダ袋を運ぶように、なんとかプールサイドまで都を引っ張っていった。
「よし、こっちだ。」
 美緒が絵里華から都を引き継いで、カジキマグロを引き上げるように、オレを水揚げした。
「大丈夫か、都!」
「都、このセレブが手当をしてあげるんだから感謝しなさいよ。」
「都たん、都たん、都たん。」
 都はぐったりしている。
「これは人工呼吸しかないな。」
((それならうちが。))
「こんな役回りはセレブしかできないわ。」
「まっほが守ってやるの。」
 三人が我さきにと争いを始めた。井戸端会議のようである。
「その必要はない。」
 会議中止を宣言した美緒。
「「「どうして?」」」
「都はすでに死んでいる。」

 生徒会室に戻った4人はオレを真ん中に寝かせて、取り囲んでいる。視線はいずれもオレの顔に向けられている。オレはすっかり血の気を失っている。
 美緒は窓の外に視線を移す。まだ夜は明けておらず、星が見える。
「都が死んだってどういうことなの?水に入ってから時間は少ししか経過してないわよ。」
 絵里華のからだから元に戻った由梨が口を尖らせて、美緒に詰問している。両手をわなわなと震わせながら。
 美緒はホワイトボードの前に立った。ペンを手に持っている。ボードに『肉体』と『魂』と大きく綺麗な文字で書いた。
「それなんだが、肉体的にどうこうというのではない。都はプールで溺死したように見えるが、本来それはあり得ないことだ。」
「そうでしょ。でも今までは夢遊病者のように動いてたのに、つついてもまったく反応がなくなってしまったのも事実だわ。不思議。」
 オレが死んだというのに、どことなく緊張感に欠ける話ぶりの由梨。強がりを見せているようだ。
「この神が思うに、都は、今までは意識がない状態だったが、からだは活動していた。だが今は魂が動かなくなったように見える。つまり『魂の死』だ。」
「『魂の死』?じゃあ、都は本当に死んだっていうこと?」
「フフフ。そういうことになりますね。」
「李茶土!たまにしか登場しない、脇役執事だわ!」
「由梨さん。これはご挨拶ですね。まあいいでしょう。脇役かどうかは別にして、出番が少ないのは事実ですから。ハハハ。」
「いきなりここに出てきたということは諸事情は一切把握しているということだな。李茶土。」
「その通りでございますよ。神代生徒副会長。」
「いちいち苗字をつけなくてよい。生徒副会長は唯一無二だ。」
 会長はひとりだが、副会長は複数いる場合もあるが。
「それは失礼致しました。それでは事態をどうするか、お話致しましょう。クランケは確かに死んでいます。」
「クランケって、何?まっほは知らないよ。」
「ドイツ語で患者という意味です。言うまでもなく都さんのことです。クランケはジバクに溢れたプールに浸かることで、魂がカオス状態になったと推測されます。つまり、たくさんの害意あるジバクに魂がずたずたに引き裂かれてしまったのです。通常の状態であれば、みなさんと同じように、そういうジバクに対しては魂のガードをごく自然に行っているのですが、いかんせん無意識ですので、ガードの施しようがなく、無防備なところを攻撃されてしまったようです。」
「ということは都は元に戻らないということ?」
 由梨の顔から色が失われていく。
「残念ながら、そういうことになります。」
((都はんは本当に死にはりましたんやろか。))
「都たんが死んだ。」
「都。・・・。」