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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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青い絆創膏(後編)

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それから数日間、私は学校に行かなかった。でもその間で、お母さんの様子を確かめることができた。とは言っても、子供の私の前だからなのか、泣き言を言ったり、愚痴をこぼしたりはしなかったけど。


お母さんは家事をあまりしなくなって、布団に寝転んでいることが増えて、食事はいつも安い弁当を近所の弁当屋で買ってくるだけになってしまった。



「お母さん…体調、悪いの…?」

ある日の昼に、私はダイニングから寝室を覗き込んで、寝そべっているお母さんにそう聞いた。お母さんは後ろ向きに横になっていたところから顔だけ振り向かせる。

「そんなことないのよ、少し、あんなことがあったから…疲れが出たのかしらね…」


“あんなこと”というのは、お父さんとの喧嘩別れだろう。もしかしたら、長年連れ添ってきたお父さんと別れてしまわなければいけないというのは、お母さんにとってとても辛かったのかもしれない。

“私が考えてたみたいに、解放感があるものじゃないのかももしかしたら、お父さんを心配してるのかもしれないし…”


だから私は、“私より、もしかしたらお母さんの方が辛いのかも”と思い、「お弁当、今日は私が買ってくるから、少し休んで」と、初めてお母さんに言えた。

「ありがとう…じゃあ、お願いしようかしら…」

お母さんはまるで病床に居るようで、今にも死ぬんじゃないかと思うくらい、儚い笑顔だった。



私はその日から、少し元気が出るようになった。勇気が出たからかもしれない。

“お母さんの代わりに私が頑張らなきゃ”

そう思えば、学校にも頑張って行けたし、保健室でみずほさんと喋っているときだって、たかやす君のことを思い出して悲しくなることもなかった。







私はある日、現国のテキストを解きながら、みずほさんと勉強の辛さを語り合っていた。私達は、保健室登校をしている生徒のために用意されている、向かい合わされた二つの机に座っていた。

目の前には、つまらなそうに淡々と世界史のプリントを解いていくみずほさんが居た。彼女は窓に背を向けて頬杖をつき、細くて長い髪を机に向かって垂らしている。

午後の明るい日光が彼女を後ろから照らすので、彼女の輪郭は輝いていた。顔の表情は物憂げに陰り、長いまつ毛が下に向かって流れているのを見ていると、美しいと思った。女の私だって、見ているだけで気分が良くなるくらい。

「ああ、もう。勉強ってなんでこんなに面倒なんだろう。でも、クラスに行かなくても、勉強だけはしないと先生たちが納得してくれないですよね」


私はそう言ってちょっと笑いを付け足した。みずほさんは三年生だけど、私と仲良くしてくれるから、私はいつも中途半端な敬語で喋っている


するとその時、みずほさんはこちらを見ないで急にこう言った。

「あなた、それをやめないと、ダメになるわよ」

「え?なんですか?」


「てんで空元気じゃない。ずいぶん上手く繕ったようだけど、中身が透けてるわ」




私はその時、「そんなことないですよ」ともなんとも、言えなかった。背中に水を浴びせられたように、血の気が引くのを感じていた。






作品名:青い絆創膏(後編) 作家名:桐生甘太郎