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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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青い絆創膏(後編)

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私が顔を上げると、目の前に知らないおじさんが立っていた。私は少しびっくりした。もちろん急に声を掛けられたからもあったけど、その人の恰好がちょっと言葉に出来ないほど、異様だったからだ。


その人はボロボロにほつれたワイシャツとチノパンを着て、それから髪は、普通だったら外に出るのを躊躇するほどにボサボサだった。それから中年太りで、おそろしく猫背だった。顔の表情は、まるで子供が大人を怖がるように、私を覗き込んでいる。


「は、はい…そうです…」

「あ、そうでしたか…すみません…こんなに、夜遅くになってしまって…」

「津田…実、さんですか…?」

「あ、はい…そうです…」

津田さんは初めから私に謝って、それから、「私の家、こっちなので…」と申し訳なさそうに微笑み、コンビニの横手にある、裏路地のような細い道を指差した。




津田さんの自宅らしき場所は、周りに大して街灯もない中に建てられた、古いアパートだった。外廊下にある電気に照らされた玄関のドアはどれもボロボロで、下が見透かせる階段は、私達が上るとギシギシと軋んだ。

津田さんは玄関を開ける前に私を振り返り、「すみません、散らかり放題で、汚いんですけど…」とまた謝って、私を部屋に招いた。

「いえ…お邪魔します…」


心許ない灯りをつけた部屋の中は、本当に床じゅうにゴミが散らばっていた。津田さんはそこで、「ちょっと待ってくださいね」と言った。それからゴミをどかして捨て、ボロボロのクッションを一生懸命はたいてから床に置き、やっと私の場所を作ってくれた。狭い部屋が一つしかないので、その様子はよく見えた。

「どうぞ、座ってください。すみません…」

「ありがとうございます」

津田さんは私がクッションに座ってから、床に直接正座をして、大きくため息を吐いた。

「ごめんなさい、こんなところへわざわざ…」

私は、ずっと申し訳なさそうにしている津田さんが少し気の毒になってしまって、「あの、大丈夫ですよ、どうぞおかまいなく」と声を掛けた。でも、津田さんは「いえいえ」と言って首を振った。

「…あ、何か飲み物を持ってきますね。ちょうどジュースがありますので」

津田さんはそう言ってまた慌てて立ち上がる。すぐにも手が届くところにあった小さな冷蔵庫からりんごジュースを取り出し、津田さんはそれをコップに注ぐ。そして、私のそばにあったテーブルにそれを置いてくれた。

「ありがとうございます。いただきます」

私が会釈をしてからりんごジュースをひと口飲むと、津田さんは私をまじまじと見つめ、急にこんなことを言った。

「…あなたは、きちんとしていますね。きっと、ご両親が良い方なんでしょう…」

そう言われたので、私は思わず首を振る。そして、あやふやに「いえそんな、うちは…」と返した。

「掲示板で読みましたが、離婚をされたと…どんな事情があったんですか…?」


私はちょっと迷ったけど、「これで自己紹介もできるかな」と思い、長い長い話を始めた。





作品名:青い絆創膏(後編) 作家名:桐生甘太郎