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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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青い絆創膏(前編)

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私が扉を開けた先には、知らない男子生徒が立っていた。錆びかけた屋上のフェンス前に、髪が茶色で体の細い、背の高い男子が居て、制服はいくらかだぶついて見えた。その生徒の向こう側には、私達が住む街がぼんやりと見える。

おかしいな、と私は思った。この屋上の鍵がいつも開いていることは、生徒のほとんどが知らない。錆びてボロボロのドアノブを見て、ほとんどの生徒は、「開かないのか」と思い込んで引き返していく。実際に挑戦しても、強く持ち上げながらでないと扉は開かないので、そのうちに「開かずの屋上」なんて囁かれるようになった。

“私だけが開けられる扉だと思っていたのに”と、私は少し残念な気持ちになったけど、別に悪いことをしているわけじゃないし、そのまま足を踏み出した。すると、その足音にびっくりしたように、男子生徒がすぐさま振り返った。

私達の目が合った時、その生徒は驚いて、何かをひどく怖がっているように見えた。まるで悪いことをしようとしていたように。私は煙草でも吸ってたのかな?と見てみたけど、その子の手にも、足元にも、煙草なんかなかったし、別段何もなさそうに見えた。

私達はしばらく睨み合っていたけど、いつまでそうしているのも不自然だし、私がなんとなくその生徒に近寄る。

「あの…ここ、よく開いてるって知ってましたね」

敬語で話しかけるのも変かもしれないけど、まあ初対面なんだしと、そう声を掛けた。男子生徒は見つけられたのを恥ずかしがっているのか、気まずそうに後ろ頭をボリボリと掻いていた。

「君、よく来るの?」

私が言った質問に近い言葉には答えずに、男子生徒がそう言う。

私は「屋上」という時間を感じさせない場所だからか、返事をあまり急がずに、ちょっと男子生徒の顔を見つめた。

彼までは、まだ十歩ほどあったけど、特に顔立ちが整っていて、素直そうな微笑みが好感の持てる男子だった。


細くて濃い眉は垂れていて、大きな目も心持ち垂れ下がり気味だった。その目を縁取る睫毛は、束になって長く伸びている。それから、鼻は細く高いけど、唇は極端に薄くて主張がなかった。

長いわけではないが細い顔の中にそれらが収まっていて、顎も細くて、あまり骨の厚みを感じない。

いい人そうではあるけど、じっと見ているとどこか不安な気持ちになるような、儚い顔立ちだった。


彼の顔を確かめ終わって返事をしようとしたけど、私の心はなぜか、「毎日来ています」と素直には答えたがらなかった。質問に答えを与えるより、謎を残しておきたくなった。

それはおそらく、この「屋上」という場所が、どの人からも肩書きを奪い、誰にも指図をしない場所、誰からも正体を取り去るような場所だからだろう。だからこう返した。

「あなたは?」

そう言うと彼はすぐに吹き出して首を振り、さらに顔の前で片手を振り回した。

「ぜんぜん。今日が初めて」

「そう。私、座っていい?寝転んでも?」

私がそう聞くと彼は、「いいよ、別に、許可はいらないじゃない」と言って笑ってくれた。私は彼から三歩ほど離れた場所に寝転ぶ。


ああ、空しかないな。でもそこに、制服がちょっと映り込む。

空だけが見えることを期待していたはずだけど、私はそこにだぶっとした制服姿が混じるのを、嫌だとは思わなかった。


それから私はたまに横を向いてジュースを飲んでいたけど、ちょっとの間を置いただけでその制服姿は、「教室に戻るから」とだけ言い残し、目の端へと消えていってしまった。


「邪魔しちゃったかな…」

そんな独り言を言った。


そのうちに予鈴が鳴ったので立ち上がり、生徒たちの声が響く階段を降りている間に、彼のことは忘れていた。




作品名:青い絆創膏(前編) 作家名:桐生甘太郎