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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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青い絆創膏(前編)

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7話「薄闇の中で」





「離婚が決まった」とお母さんが口にした晩から、お父さんはほとんど家に帰ってこなくなった。たまには帰るけど、両親の会話は事務的なもののみに限られて、私が夜中にトイレに起きた時は、リビングのソファからいびきが聴こえてきていた。


「あなたは…お母さんについてくることになったの。それで…大丈夫かしら?」

「そうなの…?」

お母さんはまたお茶を入れて、引っ越しの一週間前にそう言った。

あまりお母さんは話したがらなかったけど、どうやらお父さんにあるなんらかの事情で、私を引き取ることができない、そんなような口ぶりだった。

私は他に何を言うこともできなかったので、「うん、わかった」、と言った。


“わかった”。子供の頃から何度も言った言葉。

子供は結局何にもわかってないけど、ただ“そうしなきゃいけないんだな”思った時には、“そうすることに決めたよ”という意味で口にする、「わかった」。この時、私は自分がそんな言葉を使ったことに気づいた。


私はお母さんから、「荷造りをしておいてね。この家を出ることになるから」と、段ボールをいくつか渡された。何も知らないまま、結局お父さんとお母さんはなんの理由があって別れることにしたのかわからないまま、お父さんともろくに話せず、私たちは離れた。



私とお母さんは一週間して、こぢんまりしたアパートに移り住んだ。そこはリビングと寝室の二つしか部屋がなくて、それぞれ六畳くらいの広さだった。前のマンションよりだいぶ狭かったので、お母さんが好きで持っていた花瓶やたくさんのお皿、それから家電もいくらかを売り払ってしまわなければいけなかった。私の学習机も新しい部屋にはとても置けないので、小さなテーブルに買い替えられた。



深夜、両親が怒鳴り合っている声はもう聴こえない。でも、それは「いない」からだ。私はもちろん、「いがみあう親」というものを見なくて済むようにはなって、少しは落ち着いた。でも、“いないのと、いても喧嘩してるのとでは、どっちがいいんだろう”と思い始めて、わからなくなっていった。

それから、お父さんが一人で暮らす様子も考えた。

まだ一緒に暮らしていた時、お母さんはよく、お父さんが次のビール缶に手を出すのを止めていた。そうすると決まって喧嘩が起きるけど、誰かがそうしなかったら、お父さんは延々とお酒を飲み続けるだろう。


“大丈夫かな、お父さん…。”


私はそれだけが心配だった。


“あんなにお酒を飲むお父さんが嫌いだったのに、離れてみるとこう考えるものなんだ…。”


作品名:青い絆創膏(前編) 作家名:桐生甘太郎