青い絆創膏(前編)
私はびっくりした。隣のベッドから、私を呼ぶ女生徒の声がしたのだ。知らない生徒の声が。私は校内に友達もいないから、保健室でたとえ隣にいたとしたって、こんなふうに出し抜けに、親しげに話しかけて来る人なんかいないはずだ。
それは、よく通るけど細く小さい、消え入りそうな声だった。私は、か弱そうで腺病質に見える女の子を想像しながら、一応返事をした。
「は、はい…」
まるで、洞穴から聴こえてきた謎の声に返事をした気分だった。すると、突然ころころと女の子が笑う声がして、しばらくそれは鳴り止まなかった。そして笑い終わると、その女の子はわけを話してくれた。
「あーおかしい。ほんとに跡見さんだった。私ね、たかやすの友達。彼から聞いてたの。びっくりした?ごめんなさいね」
どこか大人の女性になりきったような女の子の声はやっぱり細くて高く、そして私を大いに驚かせた。
「今日ね、あなたのクラスに探しに行ったらいなくって、もしかしたらと思ってここに来たの。でも、前から保健室登校してた先輩は私の方よ?」
「そ、そうなんですか…でも、なんで私のこと、探してたんですか…?」
私は、矢継ぎ早にいろいろと聞かされたので、処理しなければいけないことが山積みで、あまりびっくりばかりもしていられなかった。
すると突然、保健室はひっそりと静かになって、隣のベッドに軽いものが落ちたような、とさっ、という音がした。女の子が腕をベッドに下ろしたのかもしれないと私は思った。
でも、いつまで待っても返事はない。私はせっつきたかったけど、これはたかやす君の大事な話なんだろうし、隣の彼女も乱暴に聞き返されたくはないだろうと思って、黙って待っていた。
「…自殺よ」
ため息を注意深く絞り出したような声が、そう告げる。私の息が一度止まった。
「…遺書はなかった。どこを探しても。でも、病死でも、事故死でもないわ…」
“そんな。どうして?これは本当なの?”
私はそう思ってから、“急なことを聞くと、本当にこう思うんだな。”と、どこか別の場所から自分を観察する別の私を感じていた。極端な驚きに、神経が麻痺しているような気がした。
“あ、息、止まってたっけ。どうしよう、いつになったら始めていいのかな?”
でも私はすぐに我に返って、細く細く、隣の彼女に聴こえないように息を吐いた。
“待って。落ち着いて。どうかしてる。”
呼吸をするのに考える必要なんかないし、止めたままでいなきゃいけなかったら死んでしまう。でも、そんな当たり前のことすらわざわざ一度手に取って確かめてしまうくらい、私は気が動転していた。
そのうちに私の体は、あの時のように手や足がどんどん冷えていき、呼吸は苦しくなっていった。
「たかやすはね…あなたが好きだったのよ」
細く高い声が言ったことは、どこか遠くの、白い光に包まれた空から響くように聴こえた。