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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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青い絆創膏(前編)

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5話「失われた場所」






私は、たかやす君が亡くなり、元々家庭もめちゃめちゃになっていたことで、なんだか「これからどうしていったらいいんだろう」といつも考えるようになっていった。

でも、誰にもたかやす君の話はできなかった。だって誰に言っても、「でも、知り合ったばかりだったんでしょう?」と言われれば、私だって慰められたような顔をしなければいけない。二回しか話したことのなかった人の死をひどく悲しむなんて、普通はあり得ないからだ。でも、私には置いていけないことだったんだ。

確かに喋ったこともすごく少なかったけど、そのとても少ない言葉の中で、“たかやす君は私をわかってくれた”と思った。それだけで私はとても嬉しかった。“たかやす君と友達になりたい”とも思った。

ほとんど会話をしないまま別れが来たからこそ、私は悲しかった。

“もっと話したかった。たかやす君のことも知りたかった。でも、もう無理なんだ。たかやす君は死んじゃった。だからもう会えない。なんでこんなに早くに…。”

私の頭にそれが思い浮かぶと、ふっとそこへ“家に帰るのも辛い。学校に友達もいない。これからどうしていくんだろう…。”という文句が付け足されて、そんなふうに言葉は空回りし続けていた。


それだからか、私はもうまったく学校に興味を失くしてしまい、担任の先生に勧められて保健室登校をするようになっていた。



「学校に行きたくないの」

私がそう言った時、お母さんはとても慌てて、「どうして?学校で何かあったの?」と何度も聞いた。でも私は何を聞かれても首を振ることしかできなかった。「辛いことがあったの?」という言葉にも、「いじめられたりしてるの?」というものにも頷かなかった。お母さんはそのうち根負けして、その朝、学校に電話をして相談してくれた。



保健室登校になってから、スクールカウンセラーの先生とお話をするようにもなった。カウンセラーの先生には、「家庭が上手くいっていない」とか、「クラスにいづらい」というようなことしか話せなかった。他の誰よりも、学校の先生にだけは、たかやす君の話をしたくなかった。


だって、学校の先生たちは公平だ。生徒ひとりひとりに同じように接する。

でもそれじゃ、私たち二人のことが、「たくさん居るうちの二人」というふうに、薄められてしまう気がしていた。私がたかやす君の死をどうしても受け入れられないと思う気持ちも、たった一つのものとして扱ってもらえないんじゃないかと思っていた。




私は今、保健室のベッドに寝転んで、保健の先生にもしたかやす君のことを打ち明けたら、先に続く会話はどんなものだろう、と考えていた。薄緑のカーテンに囲まれた天井に、たかやす君の朗らかな笑顔が浮かぶ。


保健の先生はためらいがちに息を吐いてから、なるべく私を気遣うように、静かに静かに喋るだろう。先生は急に姿勢を直したり、書類を閉じたりしてから、こう言う。

“友達だったのね”

私は返事を一つしか持っていない。

“いいえ、はっきりとは”

それで保健の先生は、私が親友を失ったわけでもなかったことに少し安心して、それでもなお悲しそうにこう繰り返す。

“でも、仲が良かったんだ。悲しいわね”

私はそれに、ただ次のように返すしかない。


“はい”


「違う…」

思わずそうつぶやいて、ごろりとベッドの中で寝返りを打った。

“そんなに簡単に片づけられるような関係じゃない。私たちは普通に出会ったわけでもなければ、普通の付き合いをしていたわけじゃないし、当たり前の言葉だけ交わしたわけじゃなかった。だからそんなふうに…”

私が一生懸命そうやって考え回している時、保健室の戸がガラガラと開けられた音がして、すぐさま私の隣のベッドに誰かが寝転ぶような、シーツが大きく擦れる音が聴こえてきた。

“誰だろう。変だな。怪我や急病なら、先生や他の生徒が付き添ってくるはずだし”

私はベッド周りのカーテンをすべて閉めていたので、どんな生徒が来たのかもわからなかった。でも私の体は思わず緊張して、ちょっと居心地が悪くなる。

“でも、これがもしサボりに来たような生徒だとしたら、すぐに眠ってしまうし、それに私はここから起き上がる気なんかないし…”


「ねえ、跡見さん」


作品名:青い絆創膏(前編) 作家名:桐生甘太郎