青い絆創膏(前編)
1話「透明な屋上」
「ねえ…もう帰ろうよ…多分大丈夫だって」
「でも…」
「だって、暗くなってきたし、怖いよ…」
その声は、子供のものだった。そこは草深い林を流れる川のほとりだ。どこかの山の中だろうか。子供二人はランドセルをそれぞれ背負っていて、どちらもほんの小学低学年ほどの男子らしい。一人の子供は半ズボンから元気そうな膝小僧を出し、もう一人はわりあい厚着の子であった。Tシャツの上にさらにニットカーディガンをはおった子供が、半ズボンの子に、「帰ろうよ」と繰り返している。
半ズボンの子はどうしても帰ることに戸惑い、その場に留まろうとしていた。それには何か深いわけでもあるように、子供は二人共、不安そうな顔をしていた。
「しかたないよ。怒られちゃうし、早く帰ろう…?」
暗闇が迫り、薄紫のベールがかかったように、林の中は光が乏しくなっていく。それに耐えかねてほとんど泣き声のような声を出し、カーディガンの子供は半ズボンの子の手を引いた。引かれた方は曖昧に嫌がる素振りはしてみせたが、友達を気遣うのか、手を引かれるままに林のゆるやかな斜面を降りて、やがて子供達は見えなくなった。
そこには当たり前の暗い林だけが残り、どこか不気味さの漂う中、日が暮れて山から吹き下ろす風が、草や木をざわめかせるだけだった。