少年と燃える青年
少年の悲しい罪
通路を進んでいくと、見るだけで体感温度が2〜3度下がりそうな灰色の石の壁に囲まれた大法廷のような広間に来た。少年が立っている場所から離れた所には、裁判長席のようなものがあった。また、その後方の壁には大きな穴が開いており、その上には赤い文字で「煉」と書かれている。少年は、裁判長席の後方の穴と「煉」という文字を見て、首を傾げた。
(何だろうあの字…)
すると、突然周りが暗くなり、野太い声が広間中に響いた。
「閻魔大王様のお出まし〜!」
大太鼓よりもさらに大きな太鼓の音が何度も鳴ると、広間が再びぱあっと明るくなった。そして裁判長席には、八の字ひげを生やし、サングラスを着用し、「王」が幾つも施された柄の金色の和装をした閻魔大王が着いた。裁判官としての威厳があるのかないのか分からない出で立ちを見て、少年は思わず吹き出した。
「笑うな、亡者!頭を下げろ!」
閻魔大王の左横に控えている側近の青鬼に軽く怒鳴られ、少年は座ったまま頭を下げた。
「面を上げよ」
裁判官の声に従い、少年は顔を上げた。
(この人が…閻魔大王?イメージと違いすぎる…)
少年が心の中でつぶやくと、閻魔大王は1冊の薄いノートのような冊子を開き、しばらくそれを黙読した。ページをめくる音が、かすかに聞こえた。
やがて裁判官は冊子を読み終え、せき払いをした。
「そのほう、死因は『自宅マンションからの飛び降り自殺』とある。なぜにそうした?」
少年は、二度ほど呼吸をすると、話し出した。
「僕は…とある病気になってから、たびたびネット上でネタにされるようになったんです。病気にちなんだ名前で呼ばれたり、『病死する役しか来なさそう』、『短命』、『で?○報はいつ?』とか書かれたりして、生きるのに疲れて…逃げるにはああするしかなかったんです…」
書き込みの具体例を挙げたとき、少年は泣きそうな声になり、ついにボロボロと涙をこぼした。
しかし閻魔大王は無表情で唇を軽く「へ」の字にして死者を見つめ、彼のすすり泣きをしばらく聞いた。
「そのほうに言う。いかに情状があっても、自ら命を絶つというのは、そのほうに関わってきた多くの人々、ことさらに命を与えた自身の父母に大きな悲しみと苦しみを与える、許しがたい行為だ」
この無情な言葉を聞いて、少年は震えながらさらにうなだれた。
「父さん…母さん…仲間たち…本当に、本当にごめんなさい…」
少年は振り絞るような声で、恐らく相手には聞こえない謝罪をした。