EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ
そんな会話の中、春樹が気付いた。
「ちょ、ちょっと。これ。これ見て」
恵美莉が振り返ると、春樹は認印の既製品のケースの中を凝視していた。
「これどうかな?」
「どれよ?」
「どびん・・・」
春樹がぽつりとそう言った。
「どびん?」
「ああ! そうです。稀少姓の中に、『土瓶』さんと言う苗字があるんです!」
禿げた店員も目を大きく見開いて言った。恵美莉がそのケースを覗き込むと、確かに『飛村(とびむら)』と『戸部(とべ)』の間に、『土瓶(どびん)』があった。
その場に5秒間の沈黙が流れた。
「・・・これで、いいんじゃね?」
春樹が言うと、
「この棚は一本500円です」
「安い。ポーリー、これにしなよ」
「Dobbins アリマスカ?」
「ううん、土瓶」
「Dobbins・・・」
「どびん・・・」
「・・・OK。同じように聞こえるな」
「コレデ大丈夫デスカ?」
「取り敢えずは、いいんじゃない?」
「ソウカ、取リ敢エズハ、大丈夫カ」
春樹がそう言うと、ポーリーは喜んで『土瓶』を買って銀行に戻って行った。
作品名:EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ 作家名:亨利(ヘンリー)