EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ
「俺は女に会いに来ただけだ」
「女だと? お前は捨てられた未練で追っかけて来たんだろうが」
小峠はいつもとは違う、低いどすの利いた声で言い放った。
「俺とやろうってのか! この野郎!!」
更にどすを利かせて言い返す。
「お前なんか竹刀があれば、河辺でも倒せそうだなぁ!」
全く引かない小峠。そして竹刀を覆う竹刀袋の紐をほどいた。
(ちょっと、予想と違う展開だけど。どうしよう? 止めた方がいいんじゃないかしら?)
恵美莉が戸惑って春樹を見ると、彼は顔面硬直中だった。
(そうね。春樹君には無理)
桧垣が恵美莉を見て頷いた。そして、
「ちょっと、君たち! こんなところでケンカはよしなさい!」
「うるっせえ!!」
元カレが振り返って、桧垣に怒鳴った。そして再び小峠を睨んだ。
小峠は相手の目を睨んだままで、静かに竹刀を抜いた。そしてそれを振り上げ、剣術の一挙動で瞬時に間合いを詰め、剣先をピタリと相手の喉元に向けた。
これでは元カレは動けない。わずか50センチ先にある竹刀に、完全に行動の自由を奪われてしまったのだ。
「もう帰ってちょうだい!」
みのりが叫んだ。
「勝手なこと言ってんな!」
「あなたとはもう、縁を切ったの!」
「よくもそんなこと言いやがるな!」
そのやり取りの中、もう一人動いた者がいた。ピンクのTシャツにリュックをお腹にかけたポーリーである。
小峠の背後から、ポーリーがゆっくりと前へ出た。小峠と並び、まっすぐに元カレを睨みつける表情は、いつもの眉を寄せた顔だが、どこか周囲に異様な迫力を感じさせる。そして、ポーリーはお腹にかけていたリュックのファスナーを開けた。そしてそこから取り出したものは、なんと、立派な鞘に納まった一本の脇差(日本刀)だった。
作品名:EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ 作家名:亨利(ヘンリー)