EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ
「ああ、河辺さん、大丈夫ですか?」
桧垣が駆け下りて、みのりを起こそうとした。恵美莉は元カレの背後に立つ二人にも気付いた。
(春樹君・・・小峠先輩も。このいいタイミング、心強いわ)
そして、ベンチに座るポーリーにも気付いて、
(あいつは役に立たたん)
恵美莉もみのりの傍に駆け寄った。
「おい、探したぞ。なんでLINEに返事しねぇんだ!?」
みのりは地面に横たわりながら、桧垣に抱えられ顔を上げた。そして声を押し殺しながら、
「ここまで来ないでよ!」
「お前が金返さねえからだろ! 今週分どうなってんだよ!」
「ちょっと待ってよ、今手持ちがないの!」
「それでもちゃんと謝りに来る約束じゃねえか!」
「あんたとは別れたの! もう部屋に行くわけな・・・」
みのりは言葉を止めた。元カレの背後に棒立ちの二人にようやく気付いたからだ。
「まあ、君、よさないか。こんな場所で大声を出すのは立派な大人のすることじゃない」
「あ? 何ですかあなたは? 俺は元々声が大きいものでね」
「それでも、お金の話は公衆の面前でするものじゃないですよ」
「そうだぜ! お前、何様のつもりで、こんなとこ入って来てんだ!?」
そう叫んだのは小峠だった。それを聞いて、周囲は静かになった。これには恵美理も驚いた。(小峠先輩? 普段は寡黙で冷静な人なのに)
「なんだとぉ!?」
元カレは目を見開いて振り返った。声を上げた小峠を確認すると、首をやや右に傾けて、ガニ股で3~4歩近付いた。
元カレと小峠の距離は2メートル。5秒間の沈黙の睨みあい。元カレは小峠の体格を確認したのだろう。剣道部主将である小峠は、178センチの身長の割に、背筋をすっと伸ばし大きく見える。そして左手で腰辺りに竹刀を携えており、威風堂々としていた。対する元カレは、183センチの大柄な体格で体重も90キロはあるだろう。
作品名:EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ 作家名:亨利(ヘンリー)