EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ
「菅生。あの男、ちょっと怪しくないか?」
小峠は春樹に目配せして言った。この時ちょうど、ポーリーがベンチに座って来て、一方的にしゃべりだしていた。春樹は少し困惑したタイミングだったので、その男に気付いていなかった。
「私ハ、サムライヲ尊敬シテイマス。日本人ノココロハ・・・」
「え? どうした? 小峠」
春樹は小峠の鋭い視線の先を見た。するとその男と目が合った。
「あ、あいつ・・・たしか」
「知ってるのか?」
「みのりちゃんの元カレだよ。ガタイがいいから判りやすい」
「え? あれが河辺の?」
「ああ。恵美莉に写真見せてもらったことある。恵美莉の元カレもノッポだったから、一緒に遊んだことあるって」
その元カレは目が合った瞬間、咄嗟に視線を逸らし、スマホをいじりだした。これは誰もが取りがちな誤魔化しの行動パターン。その行動自体が怪しいのだが、何食わぬ表情を装い、時折無音でひとり言を言うようなしぐさを見せながら、徐々にロビーの奥に歩を進めて行く。
「何しに来たんだ?」
「借金の取り立てだ」
それを聞いて、小峠は振り返った。
「借金!?」
「いや、正確には返す謂れのない金だそうだ」
小峠はまたその男を目で追いながら、
「謂れのない借金ってなんだよ」
「とにかく金を払わないと、別れてくれないそうだよ」
小峠がゆっくりと後を付いて歩きだした。ポーリーはベンチに座った状態で、春樹と小峠を交互に見た。春樹も無言で立ち上がって、小峠の後を付いて行った。
恵美莉たち3人は階段から、広いロビーのフロアに下りて来た。みのりは頭を抱えながら足元を見ながら歩いていたので気付かなかったが、彼女らの10メートル先で、元カレがこちらに気付いて立ち止まった。桧垣はみのりや恵美莉より先にその彼に気付き、
(あれが元カレだな。これは厄介そうだ)と思った。
「みのりぃ!」
元カレが大声で呼んだ。みのりがその声に、敏感に、いや過剰に反応して、階段を踏み外した。
「でえーーーー!」
最後の5段は尻餅をついて、転げるように落ちてしまったが、恵美莉は5段目に立ち止まり、ジッと睨むようにその男に対峙した。
作品名:EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ 作家名:亨利(ヘンリー)