EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ
声をかけたのは小峠だった。彼は竹刀を担いでいる。これらか剣道部の道場へ行く途中なのだろう。
「あ、別に、ちょっと講義に遅刻したから、サボってただけだ」
「恵美ちゃんは?」
「今、バイト」
「終わるの待ってるのか?」
「いや、そうじゃない。ここにいたら、佐々木が来るかなって思ってたんだけど」
「あいつ今日は午後休むって、言ってたぞ」
「そうだったのか。でも学校休んで何してんだろ?」
「さあ、新しい彼女できたんじゃないかな」
「みのりちゃんとか?」
「・・・え? 河辺?」
「うん。彼女も新しい彼氏できたって言ってるそうだよ」
「そ、そうか、知らなかった」
小峠は意外そうに笑った。その後、特に話すこともなかったので、道場に向かおうとすると、
「タノモー!」
と、声をかける者がいた。ポーリーである。
「エミリーノ、ボーイフレンドト、剣道ノ達人ハ、友達デスカ?」
「ああ、ポーリーさん。こんにちは」
小峠が挨拶をした。
「ええ、俺ら知り合いです」
春樹もニッコリ笑って言った。
「達人ハ、日本刀持ッテマスカ?」
「いいえ、本物は持ってませんけど、実家の床の間に模造刀なら」
「モゾート?」
「イミテーションです」
「偽物デスカ。本物デ戦ワナイ?」
「ないない! 本物を持ち出したらみんな逃げますよ」
「ソウカ。ヤッパリ日本刀ハ、スバラシイ」
そうした会話の最中、小峠はある人物が気になった。小峠は直感的に部外者だと思った。一面ガラス張りの窓から中庭が見えるのだが、その中に大学生とは思えない、工事用のニッカポッカ姿の男がうろちょろしていた。その男がロビーに入って来たのだった。そして、周囲をキョロキョロ不審な動きをしている。
作品名:EMIRI 6 取り敢えず気になるアイツ 作家名:亨利(ヘンリー)