百代目閻魔は女装する美少女?【第九章】
美緒は疾風のごとく、由梨に近づいて、一気に青い手群を斬り落とした。しかし、それらはすぐに元に戻ってしまった。水だから当然である。
万步と絵里華はそれぞれの武器で防御している。
あちこちでジバクが暴れている中で、ひとり、学生帽を被った者がちらりと見えた。
「これでは拉致が開かない。みんな一旦引き揚げるぞ。」
四人はオレを引き連れて生徒会室へ帰って行った。
オレを含めて五人が生徒会室のソファーに腰掛けている。
「さあ、今回はやっかいな事件だな。」
「何がやっかいなの?」
万步が首を傾けた。
「プールはジバクでいっぱいだ。プールで遊びたいと思うジバクはたくさんいる。その中にリーダーがいるのだろう。おそらく、そのリーダーがジバク全体の意識に働きかけて、騒動を起こしていると思われる。だが、あの人数の中から見つけるのは大変だ。」
「そういうこと。じゃあ探す方法を考えないとね。それならあたしにしかできないことね。」
由梨は自信ありげだ。
「なにか、具体策があるのか。」
美緒は身を乗り出して、由梨の方を見る。
「そ、それはあとから言うわ。セ、セレブはトリを務めるのが普通だわ。」
「そうか。その口ごもりぶりからして期待はしないことにする。」
美緒はばっさり斬った。
((うちはリーダーを見たどす。))
絵里華が切れ長の目を輝かせた。
「なに?そうなのか。で、どんなヤツだった?」
((学生帽、学ランを着ていたように見えたどす。))
「ということは男の子なのかな?わくわく。」
万步のテンションが上がった。
「そ、そんなこと、あたしには初めからわかっていたわよ。」
「そうか、そうか。じゃあ、そいつを呼びだす作戦はなんだ?」
「そ、それは後のお楽しみよ。」
「うむ。とりあえずそういうことにしておこうか。」
美緒は上から由梨を見下ろした。これは精神的でもあり、物理的でもある。身長差である。
「し、信じてないわね。」
「じゃあ、どうするんだ。策を語って頂こうか。」
「わ、わかったわよ。あ、相手が学生服なら、こ、こっちは・・・。」
「こちらは?」
「せ、セーラー服よ。」
「セーラー服だと。どういうことなんだ。」
「向こうが学生服なら、きっとあたしたちのセーラー服の魅力に靡くはずよ。はあはあ。」
「なんだ、息切れなどしおって。でもそれはいいアイディアかもしれんな。」
「そうだね。男子なら、万步たちの制服コスに萌えちゃうかもね。」
「『制服コス』だと?神たちは高校生で、普段がブレザーというだけで、セーラー服は正装に近いと思うがな。まあいい。名付けて『セーラー服コスでジバクをしばく作戦』。じゃあ、これでいこう。」
ということで、ダサい名前の作戦が展開されることとなった。
再び夜の学校プールに集合した五人。全員がセーラー服。素材は水着である。
美緒・金、絵里華・赤(本体+アルテミス)、由梨・黄色、万步・ピンク、都・青色。なぜ、色を変えたかというと、ジバクの好みがわからないからである。これだけ揃えればどれかにヒットするであろうという、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるやり方。
「なかなか似合うではないか。」
((そうどす?嬉しいどす。))
「当たり前だわ。セレブにはなんでもOKなのよ。フンだ。」
「まっほ、いつもいろんな制服着てたけど、これは特にかわいいな。」
胸に大きなリボンがついているのが特徴。
そうこうしているうちにプールが波立ってきた。この前と同じ状況である。たくさんの波の山の中から、黒い学生帽が見えてきた。
「あいつか。向こうから出てきたな。この作戦が成功したらしい。」
「そうね。あたしの魅力の虜になってるはずだわ。」
「そういうことにしておこう。よしよし。」
美緒は由梨の頭をなでなでしている。
「ちょ、ちょっと、気持ち悪・・・気持ちいい。」
由梨は官能的な表情で、恍惚としている。美緒の技はスゴイらしい。
「なにを騒いでいる。お前たちはいったい何者だ。」
ついに学生帽は美緒たちの前に出てきた。
「そちらからやってくるとは好都合だな。我らは霊界から来たが人間界にいる生徒会だ。」
「複雑な境遇の生徒会だな。全部女子のようだな。女子高か?それなら興味あるのだが。」
「いやそうではない。女子でないものもいる。」
「女子高でないのは残念だ。出てきた意味がなくなった。帰る。」
「ちょっと待て。ここにいる女子四人ならどうだ。」
「レベル高いな。でも俺の好みではないな。何かサービスはあるのか?」
「そんなことはどうでもいいだろう。それよりも貴様名前を名乗れ。我は神代美緒だ。神と呼ぶがいい。」
「自分で神とは恐れ多いヤツだな。いいだろう。その鼻柱をへし折ってくれる。俺は倉井光(くらいひかる)だ。よく覚えておけ。」
「暗いのに光るのか。矛盾だらけの名前だな。」
「ほっとけ。親が勝手に付けたものだ。俺はそもそも気にいらんのだがな。」
「倉井光よ。貴様がこのプールのジバクどもの大騒ぎを起こして、さらに現世の人間の魂を入れ替えたりしてるんだな?」
「そうだとしたらどうする。」
((退治するだけどす。))
「天獄か地獄に行ってもらうわよ。」
いきなり、絵里華と由梨が倉井に飛びかかった。『カッ!』同時に、倉井のからだから光が放たれた。ふたりは倉井に触れたかどうかのギリギリのところで、跳ね飛ばされて、プールのフェンスにけたたましく激突した。金網が人型に湾曲している。
「絵里華、由梨、大丈夫か?」
美緒、万步が慌ててふたりに駆け寄り、心配そうに抱きかかえる。
((う、う、う。痛いどす。))
絵里華はアルテミスを胸に抱えた本体が倒れたのであるが、痛いというのは人形のみ。
「い、痛かったわ。」
「よかった。絵里華たんも、由梨たんも無事だね。」
万步がふたりの腕を掴んで、ぶんぶん振って喜んでいる。
「ちょっと待て。絵里華、こっちへ来てくれ。」
((美緒はん、何どす?うちは大丈夫どす。))
ゆっくりと立ち上がって、歩き出したのは由梨。
「あれ?由梨たん、どうしたの。」
「やはりな。やられてしまったな。」
「美緒たん、どういうこと?」
万步の頭には?マークがえのき茸のように生えまくっている。
「入れ替わりの術を使われたんだな。これまでは男女だったが、女子同士でもできるらしいな。」
「ちょ、ちょっと、絵里華、あたしのナイスバディを返しなさいよ。」
「それはこっちのセリフどす。こんなロシア大平原のような胸は、うちにまったく似合いまへんどす。」
「い、言ったわね!あたしの方がはるかにアルプス山脈、いやエベレスト、チョモランマよ!」
「そう言わはるなら、そのバストを触ってみるどす。」
由梨はセーラー服水着の胸元に手をやってみる。
「・・・す、スゴイわ。これがホンモノ?モミモミ。あは~ん。」
((こら、うちの大事なものに勝手に刺激を与えるんじゃないどす!))
作品名:百代目閻魔は女装する美少女?【第九章】 作家名:木mori