百代目閻魔は女装する美少女?【第九章】
眉根を吊りあげて、猛抗議する由梨、ではなく、絵里華人形。つまり、『外見由梨』が絵里華人形を抱いて、喋りは人形が担当しているという構図。
「おいおいふたりともそんなことをしている場合じゃないぞ。お前たちをそんな風にした張本人はそこだぞ。」
美緒は倉井を指差した。倉井は両手を腰に当てて、ニヤリとしている。
「俺にむやみに触れるとこうなるわけだ。自業自得ってやつだな。」
「そういうことか。これはやっかいな相手だな。ふたりを元通りにするにはどうしたらいんだ。」
「さあな。俺を倒せばわかるだろう。わははは。」
「ならば力づくでいくか。ならば武器を使うしかないな。」
美緒はお面を外して、戦闘態勢に入った。薙刀が月光を浴びて、鋭さを増す。
「そう来ればこちらも闘るしかないな。まずはこいつらが相手をするぞ。」
水の中から次々と男子ジバクが出てきた。全員海パン姿。それもブーメラン型。揃って、ボディビルダーのように、力こぶを形成している。筋肉には青筋が立っている。数十人で行うポージングは不気味としかいいようがない。
「こ、これは、せ、正視できない。」
さすがの美緒も目のやり場に困ってしまった。
「うわあ。こういうの久しぶり。うきうき。」
万步はアイドル水泳大会にも出ていたので、男性アイドルのこういう姿には免疫がある。但し、見ているのはいいが、戦闘意欲にはまったく欠けていた。
((恥ずかしいどす。))
アルテミス、本体共々顔を覆い尽くす絵里華グループ。本体とは『外見由梨』なのでお間違えなく。
「こんなの見てられないわ。」
『外見絵里華』の由梨も顔を押さえている。しかし、こっそりと指の間から瞳を輝かせているのはいかにも乙女チックである?魂は入れ替わったまま。
海パンジバクたちは、少しずつ美緒との間合いを詰めてきた。美緒は俯いたままで、戦意を喪失したようである。薙刀はお面に戻っている。顔を隠すためだ。海パンジバク軍団はついに美緒のところにやってきた。
『ベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタ』
「うあああああああああああああああああああああああ!」
美緒は気絶してしまった。そもそも男嫌いの中で、こんな数に攻撃をされたらたまったものではない。攻撃といっても、からだを触られただけなのだが。
「わははは。俺の勝ちだな。他の連中はどうだ?まだ俺に抵抗する強固な意思は持ち合わせていないだろうがな。」
倉井は万步に蔑んだ視線を送る。
「まっほは別に大丈夫なんだけど。」
「ほほう。強気だな。ではこいつらの餌食にしてやろう。そら、いけえ~。」
倉井の号令に従い、プールの中での移動が始まった。波が一定方向に動いていく。それはひとつの塊となり、巨大なグリズリーのように万步に襲いかかっていく。万步は凶悪な爪の餌食となるのか。
「まっほはぁ、イタズラッ子は嫌いなのよ。みんな近くから応援してね♪」
万步は右手のVサインを横にして、右目に持っていく。そしてウインク。
「「「「「「「「「「ぐはっ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」
プールが真っ赤に染まった。ジバクたちは次々と沈んでいく。
「万步が助けてくれたな。」
苦しげな表情ながら、美緒が一言吐いた。万步はアイドルパワーでジバクを倒した。これは自分の身を守るという精神防御の力の成せるワザ。
「ほう。お主、なかなかやるな。俺の部下もだらしないがな。」
万步はいつものように笑顔をみせながら倉井に近づいていく。
「倉井たん。お話があるんだけど。」
「なんだ、拍子抜けなヤツだな。何が言いたい。」
「倉井たんは女の子だね。」
「・・・。」
「やっぱり。」
「な、なにを言う。この学ランが目に入らぬか~!」
「でもその豊満な胸は何かな?」
「こ、これは防御服だ。胸の部分を補強しているんだ。日夜バトルモードだからな。」
「説明ムリだね。では失礼して。」
『ボヨーン。ボヨーン。』
「よく弾むね。気持ちいいな。」
「こ、この野郎!な、何をする。」
万步は攻撃の手を緩めない。万步の防御力には入れ替わりの魔法も効かないらしい。
『モミモミ。』
「あ、あ、あ。」
「ほら、こんな真っ赤になって。」
「や、やめろ!これは誰にも触れられたことがないんだぞ。」
「そんなに大事にしているんだ。」
「そうじゃない。俺は男だ。誰も相手にしない。」
「まだ言い張るんだね。ではもっと激しく行くよ。」
「や、やめてくれ。俺の話を聞いてくれ。」
「やっとその気になってくれたね。」
万步は落ち着いた表情で笑顔を作った。でも目は笑っていない。
「確かに俺は外側は女だ。でも内側は男だ。」
「なるほど。つまり、性同一性障害の女子ということだね。」
「そういう表現は好きではないな。人間の本性はあくまで中身だ。それが男であれば男性とすべきだろう。」
「そうなんだ。生き方に関する考え方は人それぞれ。いいんじゃない。」
「ずいぶんとものわかりがいいじゃないか。こんな発想は現世ではすべて否定されていたぞ。」
「そうかもしれない。でもまっほには理解できるよ。」
((それはうちも同じ思いどす。))
『外見由梨』絵里華がツインテールを揺らしながら、割って入ってきた。由梨の姿での京都弁はなかなかかわいい。
「なんだ、どいつもこいつも女、女じみてやがる。」
((倉井はんの話を聞かせておくれやす。))
「面倒くさいな。でも俺の気持ちを聞きたいというのは珍しい。そこまで言うならきちんと話そう。」
「俺は子供の頃は親から女の子としてちやほやされていた。近所の人たちもそんな扱いで、地元では有名な美少女だった。」
倉井はおもむろに黒い学生帽を取った。はらりと短い髪が落ちる。細い目尻にブルーの丸い瞳。ムーンライトを浴びて艶やかに光っている。帽子のつばに隠れていた目はやや吊り気味で鋭いが、長い睫毛がやわらげている。
作品名:百代目閻魔は女装する美少女?【第九章】 作家名:木mori