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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Ravenhead

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「ちょっと一周しよか」
 廃車の山を縫うようにデリカをのろのろと進めながら、島野は言った。
「車は好き?」
「うん」
「今置いてある車の中で、好きなやつはある?」
 島野が顔を左右に振りながら言うと、将吉も同じようにして、黄色のランサーセレステを指差した。
「珍しい車」
「あれが好き? ほな、よく聞いて。これから、ちょっと危ないことになるかもしれん。しばらくは、この車の中におってくれ。おれは常に見える位置におるようにするから、おれが手で丸を作ったら、さっきの黄色い車まで逃げて、そん中に隠れてほしい」
 将吉は記憶に刻むように、通り過ぎたランサーを振り返った。
「手で丸?」
「そう、丸」
 島野はそう言うと、デリカのハンドルを切った。海知のことは、全く信用できない。時期が来れば、子供だって簡単に殺すだろう。島野は廃車の山を半周すると、事務所が視界に入る側まで到達して、海知から見えるようにデリカを停めた。海知が親指を立てて頷き、島野はエンジンを切るとデリカから降りた。海知は周囲をぐるりと見まわしてから歩いてくると、島野にAMTスキッパーを一挺手渡した。
「四五口径や。七発入ってる。使い方は分かるな」
 島野が頷くと、ベルトの後ろ側にもう一挺のスキッパーを挟んだ海知は、散弾銃を手に持って、事務所の方へ向かった。半分ほど歩いたとき、砂利を踏む足音に混じって、遠くで何かが弾けるような音が鳴ったのを、海知は聞き取った。何か、金属製の部品が破断したような、甲高い音だった。
 孝太郎がワイヤーカッターで金網を切り、人が通れるスペースを切り開いたとき、すでにヤードの中を進んでいた浩義はマグナムキャリーを低く構え、入口に最も近いクラウンエステートの陰に屈みこんだ。孝太郎とは反対側にいたが、海知の姿が見えなくなり、金網を切る音もすでに止んでいた。
 海知は、金網が切られた痕を見つけ、そこから足跡がヤードの中に続いているのを見て、息を殺しながら足音の方向とは逆向きに動いた。ヤードの中に、朝戸家が入ってきている。
 後部の割れた窓から容赦なく吹きこむ潮風に、霧鞘は大きなくしゃみをした。十野はヤードの手前でセドリックを停めると、霧鞘に言った。
「まずはおれが入るから、海知にかけて。おるって証明になる」
 霧鞘はセドリックからいち早く降りて、履歴から海知の番号を呼び出した。十野はセドリックのエンジンを切り、運転席から降りた。息を整えながら歩き、ヤードの中を覗き込んだとき、霧鞘に海知の電話を鳴らすよう、目で合図を送った。
 海知が、正面入口を背にしてトラックの陰に身を低くしたとき、スマートフォンがポケットの中で着信音を鳴らした。
「は? あ、時間か」
 十野との指定の時間を思い出したとき、十五メートルほど離れた事務所の裏から銃口が現れたのが見えて、海知は散弾銃の引き金を引いた。銃声と共にドラム缶が跳ね上がり、反対側の廃車の山から現れた銀色の銃口に向かって二発目を撃つと、海知はトラックの車体下に転がり込んで、反対側に抜けた。ポケットから散弾を二発取り出すと、散弾銃をひっくり返して装填し、正面入口とは反対側の、廃車でできた碁盤目の通路へ飛び込んだ。挟み撃ちにするなど、百年早い。しかし、居場所はすでに知られていたということになる。海知はスマートフォンの着信音をサイレントにすると、耳を澄ませた。トラックを挟んで左半分にひとり、右半分にひとり。その位置関係は変わっていない。動けば、必ず視界に入る。
 島野はデリカの傍に伏せていたが、ようやく体を起こして、ゆっくりとスライドドアを開けた。
「将吉くん、例の車に隠れて」
 将吉が駆け出していき、島野は海知の居場所を探した。今は、朝戸家と海知のどちらからも、弾を食らう可能性が高い。
 十野は、突然鳴り響いた銃声に思わず伏せたが、その方が無防備であることに気づいて、立ち上がると事務所の陰に隠れた。さっきまで人の気配がしていたが、膝をついて屈んだような跡だけが残っていた。
 孝太郎は、ドラム缶に当たって跳ね返った散弾の一部を、左腕に受けていた。散弾銃の銃口がぶれるような大きな怪我ではないが、肘に向かって伝う血が気を散らせる。海知がトラックの下側を抜けて反対側へ出たのが、微かに見えた。孝太郎は入ってきた金網から外へ抜けると、川沿いの入口へ向けて走り始めた。
 浩義はトラックの下から先を見通すように目を細め、マグナムキャリーの銃口を上げた。海知の姿は見えないが、ほとんど落ちかけた夕日に照らされて、影が見えている。
 十野は事務所の陰から顔を出し、将吉の姿を探した。廃車の山から鼻先を出すように白いバンが停まっているのが見えて、息を大きく吸った十野は、駆け出した。砂利を踏む足音を気にする間もなく、デリカの前まで来た十野は、開けっぱなしになったスライドドアから中を覗き込んだ。誰もいないが、さっきまでいたことは、残っていた空気から伝わった。十野は歯を食いしばり、辺りを見回した。
 霧鞘は敷地の中に足を踏み入れると、砂利を踏みしめながら少しだけ身を低くした。車がいっぱい置いてあって、どこを切り取っても同じ景色に見える。十野に追いついてその肩を叩いたとき、振り返った十野は慌てて頭を下げさせると、小声で言った。
「なんで入ってきたん」
「見つかりましたか?」
 霧鞘は廃車の山を見渡しながら、言った。十野は首を横に振り、足音が騒がしくなった方へ注意を向けると、遠ざけるように霧鞘の手を引いた。角を回り込もうとしたとき、目の前に人が現れて、十野は反射的に振りかぶった拳を顔面に叩きつけた。霧鞘は、今度は悲鳴を上げることなく、目の前で起きたことを自分の目で見届けた。仰向けに倒れた島野は、そのまま気を失っていた。
 浩義は、一旦消えた影がまた戻ってきたことに気づいて、マグナムキャリーの撃鉄を起こした。シリンダーがぐるりと右に回り、シリンダーストップのかかる小さな金属音が鳴った。息を止めたとき、影に続いて、足が少しだけ現れて止まり、浩義は引き金を引いた。
 海知は、自分の左脚を削ぎ落すようにマグナム弾が突き抜けたとき、反射的に飛びのいて尻餅をついた。弾は膝小僧の真上の組織を削ぎ落し、車体に跳ね返った。立ち上がろうとしたとき、自分のいる側から散弾銃の銃声が鳴り、海知は伏せた。足を引きずりながら碁盤目の中に入り込むと、海知は敢えて銃声が鳴った方へ進み、散弾銃の長い銃口を見つけた。
 孝太郎は、敢えて自分に近づいてきた海知が廃車の山から顔を出したとき、ダンプカーの後ろに滑り込んだ。トラックの下をくぐってきた浩義が視界の隅に映り、孝太郎は叫んだ。
「おれの十二時方向、十メートル!」
 浩義が間合いを詰める中、孝太郎はダンプカーの真下から顔を出し、伏せた海知がずっと狙っていた射線に自分が出たことに気づいた。銃口が光り、目の前のタイヤが破裂した後、破片が孝太郎の左目と頬に突き刺さった。
 海知は、足を引きずりながら元来た道を戻り、浩義が通り過ぎる足音を聞いた。少なくとも、孝太郎には怪我を負わせた。真正面から撃ち合えば、とんでもないことになる。海知はトラックの傍まで来ると、身を低くした。
作品名:Ravenhead 作家名:オオサカタロウ