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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Ravenhead

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4


 昼の三時。張り込みが終わった。孝太郎は、コピー用紙に見取り図を描いた。工場が稼働する轟音に混じっていたが、十発近い銃声が鳴ったのは、車の中でも分かった。海知は武装している。あとは、いるとすれば島野だが、銃を扱えるのかは分からない。孝太郎は、浩義に言った。
「日が落ちたら、前を一周する。お前は川沿いの側から、柵を乗り越えて入れ。おれは金網を切って、わざと音を鳴らす」
 浩義はうなずいた。孝太郎はトランクを開けてカローラスポーツから降りると、道具を確認した。コルトマグナムキャリーと、三五七マグナムが十二発。アストラコンスタブルは七発弾倉が二本。ベネリの散弾銃に使うフィオッキのダブルオーバックは、十五発。そして、柵を切るためのワイヤーカッター。
 孝太郎がトランクを閉めたとき、スマートフォンに海知からの着信が入った。孝太郎は駐車場のトイレまで早歩きで移動すると、個室に入って通話ボタンを押した。海知は言った。
「どこにいてるか、気になってきたんちゃいます?」
「そうやな、先延ばしにするほど、お前が死ぬ確率は上がるぞ」
「言いますねー、今どこっすか」
「家にいてるよ」
 海知は返事の代わりに、電話の向こうで銃を撃った。スピーカーが破裂したような音が鳴り、また静かになった。孝太郎が黙っていると、海知は言った。
「また、かけまーす」
 この電話は、居場所の確認だ。もし近くにいれば、数秒遅れて孝太郎の側から銃声が聞こえる。海知は向こう見ずだが、頭は決して悪くはない。
       
 下駄箱から出したローファーが床とぶつかって、こつんと音を鳴らしたとき、門森は言った。
「あかんで」
「なんも言ってないし」
 霧鞘は靴を履き替えると、門森を見上げながら言った。こんなやり取りを、前にもした気がする。門森は授業中もうわの空で、六限目の数学すら、積極的に挙手することはなかった。村井は終礼の中、ちらちらと顔色を窺っていたが、結局引き留められることはなかった。だから今はこうして、下駄箱の前まで来てしまっている。門森は、かかとを押し込んだ霧鞘が目線の位置まで顔を上げたとき、言った。
「言ってなくても、顔で分かるよ」
「わたし、元に戻りたいんよ。なんか、自分でも説明できんねんけど、これでやっと、元の自分に戻れる気がする」
 霧鞘は言った。門森の顔を見て、自分でも自身のことが理解できないように、ぎこちない笑顔を作った。
「わたしの親から連絡が入っても、今日は一緒にカフェで勉強してるって、話を合わせてほしい」
「無茶やで、真由。私にお願いしてることじゃなくて、やろうとしてることが危なすぎるから」
 門森が言うと、霧鞘は自分がそのことを一番分かっているように、うなずいた。他の生徒たちが、自分たちを避けるように、少しだけ歩く方向を逸らせて通り過ぎていく。その流れが止まったとき、霧鞘は言った。
「杏樹、約束しよ。わたしらには、これからやりたいことが、いっぱいあるでしょ」
 門森がうなずくと、霧鞘は、二人で話していた『観に行きたい映画』や、『行きたいカフェ』、『食べたいコンビニのスイーツ』を次々に挙げていった。言い終えたとき、門森は首を横に振った。
「それは、約束ちゃうよ」
 霧鞘が唇を結ぶと、門森は言った。
「明日、週末どこに行くか決めよ。絶対来てよ」
 霧鞘はうなずいた。眉にかかった前髪を払いのけると、言った。
「うん。絶対行く」
 霧鞘は正門から出ると、海知から送られてきた地図を見て、十野の番号を鳴らしたが、電源は入っていなかった。様子を確認するために、ひとりで見に行くしかない。怪しい気配がしたら、ダッシュで十野の家まで戻る。電話が通じない以上、それしか手段はない。高校から地図で示された場所までは二キロほどだが、そこから十野の家までは、四キロある。歩きで到達できる距離だが、時間はそれなりにかかるだろう。こんなことになると分かっていたら、陸上部に入っておけばよかった。夕焼けが後ろから道を照らす中、霧鞘は歩き続けた。
 三十分が過ぎ、遠くに見えていた煙突が目の前に迫ったとき、『危険 関係者以外立ち入り禁止』と書かれた古いトラ柵が現れた。そこから砂利道が廃墟へ続いているが、これでは中に入らないと、様子が分からない。落書きだらけの、セメント工場跡。霧鞘は深呼吸すると、トラ柵の隙間から敷地の中へ入り込んだ。
        
 夕方四時半。日が傾きつつある。トラックで作った遮蔽物の下に伏せて、海知は銃を構えるスペースがあることを確認すると、体を起こした。準備は整った。銃は全て、フル装填してある。正面入口は、積載車が大回りして入れるギリギリの広さ。朝戸家が入ってくることはないだろう。この入口に案内するのは、十野だ。将吉の顔もよく見えるだろうし、奴が入ってきたら、目の前で将吉の小さい頭を吹き飛ばすことができる。滝岡から十野の家にメッセージを放り込むのに、ちょい急ぎで三十分。十野が現れるまでに三十分。少し早いが、日が落ちる時間。海知はノートの切れ端に走り書きし、デリカまで歩いていくと、もたれかかるように立つ島野に言った。
「おい、これを十野の家まで持って行って、渡すかポストに放り込め。ダッシュで往復したら、一時間でいけるやろ」
 島野は、海知の下手くそな字で書かれたノートの切れ端に目を通した。
『計画をへんこうする、ひとりでこい』
 その下には、殴り書きのように、廃車ヤードの住所が書かれていた。島野は、ずっと気にかかっていることを言った。
「あの、チャラとトンチャイはどうしてるんです?」
「裏で死んでる。意見が合わんかってね」
 海知はあっさりと言い、島野の体を押した。島野は全てを諦めたようにギャランの運転席に座ると、ぎこちない動きでクラッチを繋ぎ、エンストさせた。海知がドアを開けようとしたとき、スマートフォンが震えた。
「忙しいっちゅうに」
 独り言を言いながらスマートフォンを手に持った海知は、送られてきた写真を見て、呆気にとられた。免許証を手に持つ十野と、夕日に目を細める指笛女子高生。そしてこのメッセージは、指笛女子高生から送られてきたものだ。
「島野、降りろ。降りろ降りろ」
 海知はスマートフォンの画面を見たままギャランの窓を叩いた。島野が下りてくると、開きっぱなしになったドア越しに、ノートの切れ端を指差して、言った。
「それ、いらんわ。食いついた。チクロンには悪いけど、最後の晩餐はなしやな。頑張って死刑になってもらおか」
 海知は、今の時間を再度確認した。午後四時五十三分。地図情報をメッセージに添付し、素早く本文を打った。
『二分サービスする。五時二十五分までに来い。免許証、お前、高校生。全部揃ってなかったら、将吉くんとはお別れな』
 島野は、デリカの前まで戻ると、海知に言った。
「ここは危ないですよ。流れ弾が当たるかも」
「せやな、動かそか」
 海知は言い、ヤードの中を見渡した。裏口との間を仕切るトラックより手前なら、どこでも目に入る。
「こっち側やったら、どこでもええんちゃう」
 島野は運転席に座り、デリカのエンジンをかけた。後部座席で退屈し始めている将吉は、エンジン音で興味を取り戻したように、言った。
「どこ行くん?」
作品名:Ravenhead 作家名:オオサカタロウ