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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Ravenhead

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 将吉が手をひらひらと振り、それをバックミラーで確認した島野は、その後ろからヘッドライトがついてきて、さっきまでとは全く違う速度で追い上げてくるのを見て取った。追い越せるような道路ではないが、車間距離は相当短い。島野は、眼前に広がる道路に集中した。川を二本越えて、数年前の台風で歪んだまま放置された鉄柵を通り過ぎれば、海知の指定したコンテナヤードの敷地に飛び込める。一度行ったことがある気がして、猛スピードでデリカを走らせながら、島野は考えた。この道は相手が車だろうと、バイクだろうと、前を走っている以上は追い抜かれない。数年前、コンテナヤードに向かっていた海知も同じことを言っていた気がする。島野は一本目の川にかかる橋を越えた。車体が跳ねてバウンドし、里緒菜が運転するバイクも同じように、そのフロントフォークが大きく伸びるのが見えた。二本目の橋を同じように通ったとき、島野は会話の続きを思い出した。
『二本目越えたら、いきなり鉄柵が見える。この先は行き止まりや』
 裏口の曲がった鉄柵の間を抜けて、島野はデリカのハンドルを切った。行き止まり。そうだった。大きくハングオンしたバイクがバックミラーに食らいつき、跳ね返ったヘッドライトの光が島野の目を刺した。コンテナが並ぶ、殺風景な場所。海側にも、陸側にも建物がある。海知の言葉を完全に思い出した島野は、将吉に言った。
「将吉くん、毛布に隠れて! 今すぐ!」
 将吉が準備していたように毛布を引き上げて横になるのと同時に、島野はタイヤがパンクするような甲高い破裂音を聞いた。バイクが横倒しになり、そのヘッドライトが明後日の方向を向いたとき、島野はブレーキを踏んで、デリカを完全に停車させた。海知は確か、こう締めくくったのだ。
『誰かを待ち伏せするなら、ここやね』
 コンテナの影から出てきた海知は、散弾銃の先台を引いて空薬莢を飛ばすと、次の散弾を装填した。九発のパチンコ玉のような散弾は、里緒菜のふくらはぎを半分以上削ぎ落していた。とっさに体を離してバイクの下敷きになることを逃れた里緒菜は、立ち上がろうとしたが、左足の自由が利かずにバランスを崩した。海知は言った。
「てめー、朝戸里緒菜か」
 里緒菜は答えなかった。左足が水を被ったように濡れている。来週から白バイ隊員に戻るつもりだったが、それはもう叶わない。頭の片隅がそのことを受け入れたとき、海知は散弾銃を構えると、里緒菜の右膝に向けて引き金を引いた。右足が膝を中心に真っ二つに割れ、里緒菜は悲鳴を上げた。自分の足で歩く。それはもう叶わない。海知は三発目を装填すると、言った。
「チクロンがおらんで、よかったな。浩太くんは、どーでもいいわけ?」
 その言葉に対する里緒菜の表情の変化を見たとき、海知は悟った。朝戸家は、浩太が死んだことを知っている。長いため息をつくと、海知は里緒菜がたすき掛けにしているバッグからスマートフォンを抜きだし、里緒菜の顔にかざしてロックを解除した。カメラを起動すると、動画撮影のボタンを押し、タイムコードが赤色に反転して録画が始まったことを確認してから、空いている方の手で自分にカメラを向けて、言った。
「お察しの通り、朝戸浩太くんは死んでいます。海知からは以上です」
 海知は、里緒菜にカメラを向けた。
「何か、言いたいことある?」
 里緒菜が口を開きかけたとき、海知はその顔に向けて散弾銃の引き金を引いた。録画を止めて、数十秒の動画を孝太郎と浩義に送った後、二人の連絡先を控えてから、スマートフォンを足で踏みつぶして壊した。ポケットから散弾を抜き出して、一発ずつ装填しながらデリカの助手席まで歩くと、窓を叩いた。
「島野! この車は何?」
 運転席から降りた島野は、できるだけ車から注意を逸らすように、体を離した。海知は散弾銃に安全装置をかけて、デリカのナンバープレートや足回りを観察した。
「骨董品やな。てか、お前はなんで朝戸のねーちゃんから逃げてたんな?」
「見つかりまして。海知さんと一緒におったらよかったんですが。亡くなった子供をダシにするのは、さすがに」
「モラルに反する? あーそう」
 島野の言葉を引き取った海知は、背を向けたまま続けた。
「ほな、終わりにしよか。お前も、二千万は諦めてくれや。おれは朝戸家ってのが、そもそも存在せんかったことにする。お前はどうする?」
「乗りますよ。断ったら、ここで殺すでしょ?」
「そこまでして生きたい? お前、死ぬまであっちこっちふらふらするって、チャラに分析されてたけど。マジでそうなってないか?」
 海知は笑顔で言った。島野が答えないでいると、自分の家がある方角に顔を向けて、言った。
「とおのまさよしって、誰?」
 島野は、海知が明後日の方向を向きながら言ったことに、安堵した。後部座席に隠れているということまで、海知なら島野の表情から読み取っただろう。それぐらいに、心臓を鷲掴みにされたように感じた。
「お前、車に住める?」
 返事を待つことなく、海知はコンテナがまばらに並ぶエリアを指差した。島野がうなずくと、両手を合わせて打ち鳴らし、立ち上がった。
「段取り言うぞ。このコンテナヤードには、ヤバい物を残したくない。やから、あのねーちゃんとバイクはコンテナの中に入れる。で、お前はとりあえずデリカに住め。仮設トイレは、解体業者が置いてったやつがある。メシは、ねーちゃんを片付けたら、おれとギャランで買いに行く。こっから別行動や。おれは、とおのまさよしって奴を探す。次に、チャラを呼び戻す。全員呼び寄せて殺すには、あの店が必要やからな。話がついたら連絡するから、それまでは、こっから出るな。一歩でも出たら、分かるな?」
 海知は横倒しになったバイクのエンジンを切ると、キーを抜いた。気合いを入れるように唸りながら引き起こすと、スタンドを立てた。島野が里緒菜の死体の前で立ち尽くしていると、言った。
「頭の側を持て。いや、頭はないか、ははは」
      
 朝の七時。三つのチーンを終わらせて、真由はローファーをつっかけるように履くと、康隆と千晶の方を振り返って言った。
「いってきます。しばしグッバイ、霧鞘家」
「今日は早いね」
 千晶が言うと、真由は笑顔でうなずき、鞄をぽんぽんと叩いた。
「勉強するから」
「まあー。わたしは二度寝するけど」
 有給休暇を取っている千晶が明るい表情で笑い、隣に来た康隆が言った。
「あまり寝てないって、感じやな」
「これは、病みメイク。んじゃ」
作品名:Ravenhead 作家名:オオサカタロウ