第三話 くらしの中で
その五
その句集を読み進むうちに次第にご夫婦の育まれた温かい家族の様子を想像するようになった。
少しでも愛情を注いでくれる夫という存在があれば私もあれほどの精神状態にはならなかっただろうなと思うが、自分の運命がそうであったのかと思うより仕方ない。
私は育ててくれた父の存在もなく、一人子として産み落とされて、母はいつも愛人との繋がりを持ちながら私を育てた。実に雑で放任だったので、私はひとりで頑張って勉強するのが当たり前になっていた。
中学になってからピアノを買ってもらい、当時としてはそれは夢のようなことだった。洋服趣味の母は私に色々な洋服をオーダーし可愛い服をいつも着て登校していた。
作品名:第三話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子