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第三話 くらしの中で

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その六


母は老後、「一人産んでいて良かった」と訪ねて来る私の友達に言っていたというのを二三人から聞いた。
私は大事な存在ではあったようだが、仕事が医師であり親の務めばかりに集中できなかったのだろうと思う。たしかに生涯かけて私には色々なものを買ってくれたり老後は十分すぎるほどのお金をくれたが、私の自立を阻むような過保護というか支配的なことを自分勝手に押し付けて来た。

そういう育て方をされたので、自分で物を考える能力も育たなかったし、思春期の大事な時期に病気にもなった。あの状態はまさしく思春期病だったと回顧している。
私の理想とする母ではなかったが、偉いひとだとは思っていた。母をとりまく人は皆私を丁重に扱ってくれた。私はそれが当たり前とすら思っていた。

人にへりくだり慈愛を向けることをしなかった母の後ろ姿は、そのまま私に反映していた。過去のことを思い出すとうれしかったことや幸せ感などは思い浮かばない。

この年になっても、もしあのとき順調に希望する大学へ進学していたら、母と離れて別の道を歩んでいたろうし、夫とも巡り合うこともなかったろう・・いつも堂々巡りばかりしている。

運命が自分に微笑みかけてくれなかったという結末でおしまい。


 完
作品名:第三話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子