第三話 くらしの中で
その二
私と夫との40年間の暮らしの中でそのような気持ちを持ったことがあったろうか、亦そのような気持ちを持ってもらったことがあったろうかと思うのだ。
ずっと不仲であったとはいえないが、お互いの愛情を彷彿とさせる思い出がないのである。それは結婚当初からそうであった。
自分勝手な言い分かもしれないが、共に暮らし始めたころ夫は実家の事ばかりを懐かしがっていた。それと結婚式を挙げるまでの付き合っている期間にも、あまり愛されている言葉を聞いた記憶がない。
どうしてそんな生ぬるい感覚で私と付き合い、婿養子として我家に来たのか。
そのことについては色々な事情があるが、夫の状態が結婚に向けての意思が決まっていないにもかかわらず、義母は速く結末を付けたいという押しの強い出方をしてきた。
作品名:第三話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子