第三話 くらしの中で
相思相愛 その一
今私は句会の方が製本された句集をいただいて読んでいる。
表紙はその方の雰囲気に相応しく薄紫の布で作られていて本を開けるときに不思議な高揚感を覚えるのだ。
折に触れて少しずつ味わって読んでいるが、全般に亘って優しい言葉で綴られており、しかも何十年も句を作られているだけあって、自分には理解できない語句や言い回しがある。
分かる句だけを読んでいるが、並べて言えるのはつい最近まで生きておられたご主人様を思っての句が多く、あたかも恋文のような句になっている。
私にとって印象深いのは、これまで歩まれたご夫妻の生活が如何に愛あるものであったか、そして今もなお、恋々として思いを募らせておられる心境がもろに伝わって来ることだ。
世の中にこのように愛し愛されて長い人生を生きられた方がいらっしゃるというのが私には考えられないほど稀有なことのように思える。
作品名：第三話 くらしの中で 作家名：笹峰霧子