第三話 くらしの中で
その三 **私の足跡
就職した小学校で数か月が過ぎたころ、このまま情けない思いをして続けていたくないという気持ちが湧いてきて、市内の高校に予備校的な学習の場があることを知って覗きに行ってみました。
ほぼ18歳を越えて浪人している生徒が数人、教師の指導の下に勉強している最中でしたが、飛び込みだったにもかかわらず入学の許可を得ることができました。
家からバスに乗って通える場所だったし、それほど嫌な雰囲気ではなかったのでここならやれるという妙な自信がありました。
母にも相談せず独断で決めた事でした。
早速校長に予備校へ入る為に先生をやめたいとの気持ちを伝えました。小学校へは5月に入ったばかりだったので10月の運動会まで居てくれないかと言われました。
10月までそれなりに子供たちとの楽しい体験をしました。いとも簡単に小学校を退職し予備校に通学することになりました。
私は滑り止めで受験して入学した地方の音大を休学していた状態でしたが、受験的な勉強はしていなかったので英語をすっかり忘れていましたが、高校では英語が得意だったので次第に思い出し、模擬試験も良い成績が取れるほどに復活していました。
次はどの大学を受験するかでした。大学一覧の本を買って母と一緒に調べました。最終的に決めたのはわが県からは近い県にある私立大学でした。受験科目は英語の他に国語と社会の三科目だったのも決めた理由でした。
母は受験の日に備えて新しいベージュのスーツをオーダーしてくれました。母は母なりに娘が動き始めたことが嬉しかったのだと思います。受験に際しては色々配慮してくれ、入学した時点で間借りする部屋探しをその県に詳しい知人に頼んでいました。私が何もできないという思いだったのでしょう。
言われるままにその宿へ荷物を送りました。荷造りをしたのは多分母だったと思います。借りた宿は商店街に面した二階の部屋でしたが、夜になっても道路を走る車の音が喧しくて一睡もできませんでした。
入学式の日に誘われて入部した軽音楽部の女の副部長さんに電話して宿を探してもらうことにしました。探してもらった宿は大学のすぐ近くの広い家で、私に与えられた部屋は二階の、だだっ広い部屋でした。
初めて自宅以外の家に住む経験をしたわけですが、この家で厄介なことが起きるとは露知らず期待に胸を膨らませて宿を変わりました。このとき多分軽音楽部の方に引っ越しを手伝ってもらったのではないかと思います。
作品名:第三話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子