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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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147.人気の遅延便



 某航空会社の23時00分発、成田−釧路間の便には、ちょっとした秘密がある。この便、異様に遅延が多いことで有名なのだ。
 遅延の理由は様々だ。天候不良だったり、機材繰りの問題だったり、システム障害なんてこともある。まあ、とにかくそんな理由で、7割は遅延している。逆に言えば、3割ぐらいしかまともに飛んでいない、そんな便なんだ。遅延すれば数十分から数時間は遅れる。なかなかこの時間のロスは大きい。こんな便、誰も予約することなんてないだろう、みんなそう思うかもしれない。それが意外にも、今もっとも人気の便だと言うんだから驚きだ。
 この便を利用するのは、社長や専務といった役職持ちの方など、いわゆるビジネスマンが多い。ビジネスマンがこんな便に乗ったら、高確率で遅れて、仕事にならないじゃないかと思う。実際、まさにその通りらしい。

 じゃあなんで、彼らはこぞってこの便に乗ろうとするのか。

 その理由は、長らく謎だった。しかし、最近ひょんなことから明らかになったんだ。先日行われた企業へのアンケート調査では、この便の予約をするのは総務部署の方や秘書など、実際本人は乗らない、という人が大半だったらしい。だから、乗ってるビジネスマンは自ら「乗ろうとしてる」んじゃなく、「乗せられてる」んだね。で、予約をしてる方々に、なんでそんな遅延の多い便を予約するのか、その理由を聞いてみると、皆、乗る人の「働きすぎ」を気にしてるそうだ。それ故、このよく遅延する便に乗ってもらうことで、しばしの間でも休んでもらいたい、という思いで予約を取っているそうだ。

 それで実際に、乗せられたビジネスマンは休めているのかって? それがみんな機内でも働き通しで、ゆっくりしている人はほとんどいないと言うから皮肉なもんだね。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔