火曜日の幻想譚 Ⅱ
148.妻の茶わん
妻の茶わんがうっとうしくてたまらない。
何なんだ、あのデザインは。センスの欠片もありゃしない。それに、無駄にどでかい。私の茶わんの倍はある。あれでもりもりと白飯を頬張っているところなどを見ると、妻まで嫌いになってしまいそうだ。それだけではない。内側がザラザラして飯粒がこびりつくし、ときおりそのザラザラに粘っこく挟まり込んで、食器洗い担当の私をひどく悩ませるのだ。
妻には、新しい茶わんに替えようと何度も言ってきたが、どうやら相当気に入っているらしく聞く耳を持ってくれない。だが、私があまりその茶わんを快く思っていないのを知っているので、わざと割ってしまうという方法も、けんかを誘発するのでよろしくない。私はすっかり精神的に参ってしまい、食事やその後の洗い物の時間が苦痛になってしまっていた。
そんな折、ふとこんな話を聞いた。
ある地方では、人が亡くなったとき、魂が現世に戻ってきてしまうことのないよう、茶わんを割るという茶わん割という風習があるらしい。
初めは、ふうん、そんなものがあるのか、と思いながら聞いていた。しかし、少ししてピンとくる。そうか、ちょっと順序が逆なだけなのか……。
数日後。
ひつぎに入り運ばれていく妻。私はその隣で涙を流しながら、憎き茶わんを思いきり床にたたきつけた。