火曜日の幻想譚 Ⅱ
154.フリスビー
休日の午前中。久々に時間が取れたので、僕は散歩がてら、近くの広場に行くことにした。20分ほど歩き、件の広場につく。
そこでは、フリスビーを投げて、犬に取ってこさせている男性がいた。犬も上手にそれにこたえ、空中でパクリと上手にフリスビーをくわえ込む。
犬とフリスビーで遊ぶ人。まあ、見慣れた光景だろう。僕はベンチに座り、彼らの素晴らしい動きをじっと見ていた。
やがて時間がたち、彼らは戯れをひとまず終える。一休みをするのだろう、僕の座る隣のベンチに彼は腰掛ける。犬は彼の足元に、ちょこんと行儀よく座った。
僕は男性に問いかける。
「元気な犬ですね」
「ええ、元気すぎて困ってるんです」
「でも、上手にキャッチできてましたよ」
「キャッチできすぎて、困ってるんですよ」
「?」
「このフリスビーをね、逃してあげたいんです」
「はい?」
「フリスビーを、この青空にどこまでも飛ばして逃してあげたいんですよ」
「フリスビーを、ですか」
「ええ。なのに、それをこいつがパクリとくわえちゃう」
「…………」
「いつもこいつが取ってくる際、くわえて壊しちゃうんです。その度に修理してるんですが」
フリスビーをよく見ると、確かに空いてしまった穴を修復した跡が見て取れた。
「いつか、あの空をどこまでも飛んでいくフリスビーを見てみたいんですよ」
彼はそう言って、立ち上がり歩き出す。その後を、犬は尻尾を振りながらついていく。
一人と一匹と一枚は、再び広場で同じ動きをただくり返す。だが、フリスビーは空に舞い上がることはなく、犬にくわえられて惨めに戻ってくるだけだった。