火曜日の幻想譚 Ⅱ
155.かくれんぼ
みんなとかくれんぼで遊ぶことにした。最初は僕がおにだ。大きな木にもたれかかって視界をふさぎ、みんなに呼びかける。
「もういいかい?」
「まぁだだよ」
「もういいかい?」
「まぁだだよ」
かくれるみんなとそんなやり取りを、何度も何度もくり返していく。
「もーいいかい?」
「まーだだよ」
「もーいいかい?」
「まーだだよ」
ずいぶん時間がかかっている。みんなよっぽど気合を入れているのか、それともかくれる場所が少ないのか。
「もぉーいいかい?」
「まぁーだだよ」
「もぉーいいかい?」
「まぁーだだよ」
それでも隠れる場所が見つかった子が出始めたのか、少しずつだが応答が小さくなっていく。
「もぉーいいかぁい?」
「まぁーだだよー」
「もぉーいいかぁい?」
「まぁーだだよー」
あと何人かだ。ワクワクを抑えて、根気よく問いかける。
「もぉーいいかぁーい?」
「まぁーだだよぉー」
「もぉーいいかぁーい?」
「……」
ようやく応答がなくなったので振り向く。僕はもう、86歳になっていた。約80年の間、木にもたれていたことになる。
調べた結果、一緒に遊んでいた子はみんなもう亡くなっていた。結婚して子供を設けた子、仕事で出世をして偉くなった子、平凡に暮らした子……。みんな僕の問いかけに答えながら、立派に生きてこの世を去っていったようだ。
余生を送りながら、僕は考える。かくれんぼって、こんなルールだったっけ?
そんなことを考えるうちに、僕にも寿命が訪れる。今際の際に、かくれんぼをした子たちの顔が思い浮かぶ。医師が、諦めたように首を横に振る。そのとき、やっと謎がとけた。
……そうか、「かくれる」って、そっちの意味だと思ったのか。あの世で、みんなにきちんとルールを説明しなくちゃな。
僕はゆっくりと息を引き取った。