火曜日の幻想譚 Ⅱ
157.木に入った人
先日、珍しいニュースがありました。
東南アジアの某国、その首都にほど近い人口数百人ほどの小さな村。その村にある深い森の中で、白骨化した男性の遺体が発見されました。遺体はあぐらをかいた状態で、西暦1000年ほどに死んだものと推定されています。
なぜその遺体は1000年もの間、見つかることがなかったのでしょうか。その理由は、驚くことに遺体が木に「埋まって」いたからなのです。
皆さんの中にも、見たことのある方がいるのではないでしょうか。歩道に植えられている街路樹の幹や枝。彼らの生命力の凄まじさ故、ガードレールなどを包み込むようにして成長している所を。この遺体はまさにそのような形で、すっぽり母の胎内に抱かれるように、木の幹に包まれて死を迎えていたのです。
この木は、村のご神木として現在も崇められており、国の文化遺産として指定されているものでした。しかし昨今の森林開発の波に飲まれ、伐り倒すことが決まってしまい、村人たちの抗議の声の中で刃が入れられたそうです。ところが竹取物語のように、木からあぐらをかいた白骨死体が現れたのでした。そのため現場は大混乱に陥り、伐採は一時中止となったそうです。伐採を担当する建築業者は、近いうちに伐採の再開を発表しました。しかし村人たちは、「仏様が出てきた本物のご神木だ、絶対に伐ってはならん」と反対運動を強めているようです。
なお、遺体が木に埋まっていた理由ですが、遺体の他に食べられる木の実なども埋まっていたことがわかっており、この遺体は木の中でも生きながらえていた可能性が出てきています。恐らく宗教的儀式によってむりやり木の中に入れられたか、もしくは即身仏やある種の苦行のように自発的に木に入ったのか、専門家の間でも意見がわかれているそうです。