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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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162.大好物



 魚が大好きだ。
 生で食べるのも焼くのも煮るのも大好きだ。朝、昼、晩の三食、魚でも構わない。もう、愛しているといっても過言ではない。それだけじゃない。魚の中でも、特に好きな部位がある。
 あまり表立って言えないのだが、実は目玉を喰らうのが大好きなのだ。だが、こういうことを言うと、たいてい気持ち悪がられる。表立って言えない理由は、まあ、ここらへんにある。

 思えば小さい頃から、魚の目玉を食べるのが好きだった。若かりし頃はそれほど魚は好きでもなかったが、それでも、必ず目玉だけは自分の胃袋に収めていた。魚自体をこよなく愛するようになった今も、この大好物を必ず最後まで取っておく。猫もまたいでいくほど魚の身を削ぎ落としても、目玉だけは絶対に手を付けない。そして最後、箸で目玉をおもむろにくり抜き、口中に放り込む。遅れて、茶わんに残ったご飯をかきこみ、食事を終えるのが通例なのだ。

 ご飯をゆっくりとかみしめる。歯のどこかで感じる弾力性。それを思い切りかみ砕く。じわりとあふれ出る味。それがご飯に染み込んで、得も言われぬ味わいを醸し出していく。これが楽しみで生きている、と言っても過言でない。
 しかし、これを快く思わないものがいる。目玉と同じくらい愛していると思っていたはずの、私の妻である。

 妻は一言目にはこういうのだ。
「気持ち悪い」
まあ、元来魚の目玉が苦手という人もいる。そういう意見があるのも、致し方はないだろう。
 しかし、妻は二言目に言うのである。
「意地汚い」
言うに事欠いて、意地汚いとは何事だ。立派に食べられる目玉を食べて、何が悪い。むしろ目玉を残すおまえに、食べ物を大事にしろと言いたい。
 今晩も、そのことで妻と議論になった。私たち夫婦は、食卓で2人、目玉を喰らう是非について議論を重ねる。
「気持ち悪いし、意地汚いし、みっともない」
ひどく妻は感情的になっている。だが、こちらだって譲れない。じっくりと諭すように持論を展開し、説得していく。
「……分かったわよ」
2時間にも及ぶ議論の末、ようやく渋々ではあるが納得してくれる。

 そんな妻の目を見て話していた私は、この目玉もうまそうだなと思いながら生唾を飲み込んだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔