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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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163.勝負の行方



 ミキちゃん含む女子数人と僕らで、夏祭りに行くことになった。

 ミキちゃんは、クラスでも一番の美人で性格も素直なとても優しい子だ。当然、競争率も高い。この機会にポイントを稼いで、ライバルたちに差をつけたいところだ。
 じゃあ、どこでポイントを稼ごうか? やっぱり縁日の屋台でいいところを見せつけるのがよいだろう。あの手の屋台でいいところを見せられるとすれば……、射的、金魚すくい、型抜きあたりだろうか。

 射的は学校でも有数のガンマニア、井上がいる。今から彼を凌駕するのは、無理と言っても過言ではない。
 型抜きは一見良さそうに見えるが、作業自体が地味だ。多分上手に型を抜いても、それほど女子からの称賛は得られないだろう。
 となると、やはり金魚すくいか。参加メンバーに金魚すくいが得意な奴がいる、という話は聞いたことがない。今から練習すれば、夏祭りの日にミキちゃんのハートを射抜くことができるかもしれない。そう信じて、猛練習をすることにした。


 夏祭り当日。ガンマニア井上の独壇場になるのを避けるべく、男子勢はなるべく射的をスルーして屋台を見て回る。
「わたあめだ〜。あ、ベビーカステラもあるよ〜」
無邪気に声を上げるミキちゃんは、今日も愛くるしい。

 一通り見て回った僕らは、金魚すくいの屋台の前で足を止める。恐らく、男子はみな同じようなことを考えたのだろう。その成果を見せる時が、やってきたようだ。
 僕らは、女子たちの見てる前で、お金を支払いポイをつかむ。ミキちゃんのハートとかプライドとか、色々なものを賭けた一戦が始まった。

 だが、勝負は予想外な方向に転がり始める。ここの金魚すくい、ぼったくりと言っていいほど難度が高いのだ。大田原がすぐさま紙を破り、続いて大迫も一匹も取れず。井上も相当練習をしてきたようだが、金魚をすくうことはできなかった。後に残るのは、僕のみ。
 僕は、水面と平行にポイを構えながら、金魚に狙いを定めていた。乾坤一擲のチャンスを虎視眈々と狙って。……だが、そうしているうちに、別の感情が芽生えてくる。この金魚たち、何を思って泳いでいるんだろう。いきなりポイで掬いあげられるって、どんな気持ちなんだろう。人間でいえば、むりやり紙飛行機に乗せられて、呼吸のできない宇宙に連れていかれるようなもんだよな。そんな思いをさせられて、狭い袋の中に入れられて、結局数日しか生きられないんだよな……。
 そんな金魚の行く末を思うと、涙がぽろぽろとあふれてきた。その涙は、構えていたポイに落ち、その紙を突き破る。
「おいおい、兄ちゃん。取れないからって泣くなよ。一匹やるからさ」
こうして、金魚すくい勝負は奇妙な形で終わりを告げた。

 その後ミキちゃんは、周りの女友達に
「取れなくて泣いてる坪井君、ちょっと可愛かったね」
と言っていたらしい。そのせいだろうか、僕とミキちゃんとの距離はグッと縮まった。

 ちなみに井上たちは今、一生懸命泣く練習をしているようだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔